女の子一日目→帰宅
皇 うぃん:元地域最強クラスの男子高校生、皇 勝利。現在は親族の意向により女体化しており、女性として生きることを決意。一ヶ月の入院生活により、筋力は一般女性クラスまで低下している。一人称はアタシ。
あれ、家の電気が点いてる。
そういえば父さん夜勤だったっぽいし、もう帰ってるのかも。
「ただいまー…うわ!?」
「おかえりうぃんちゃん!パパずっと待ってたよ!」
「あ、ありがとうだけど玄関で待ってなくてよくない!?」
「だっで!!ずぐに会いだがっだがら!!」
昨日から、前までとのギャップに戸惑いっぱなしだ。
…アタシが男のままだったらここまで溺愛はされてないよな。
そう思うと少し複雑ではあるが、両親が喜んでくれていることだから、深く追求はしないでおく。
「母さんは?」
「少し遅くなるから、二人で食べておいてって」
「そっか、んー。何食べよう?」
頬に指を当ててみる。
ーーガタッ!!
え、何なんの音?
「うぃんちゃんそのまま!そのまま待ってて!」
ーーカシャッ!カシャッ!!カシャッ!!!
怒涛のシャッター音。
本当、どうしちゃったんだよ父さん…『俺』は悲しいよ。
まぁ、嬉しそうな父さんを見てると、ちょっぴり嬉しくもあるけどさ…。
…何コレ、恥ずかしい。
◆
「いやぁー、美味しかったねー!久し振りにうぃんちゃんと一緒に食事が出来て、倍美味しかった!」
「そうだね、アタシは昨日まで点滴だったから、さすがに胃が小さくなってるみたい」
お腹をさすさすする。
「まだ無理しちゃいけないだろうからね。そういう意味では安上がりだったから、パパ、倍々嬉しい!」
隣りを歩きながら父さんがおどけて見せる。
「…でも、無事に済んで本当に良かったよ」
「まぁ、そうだね。アタシは寝てただけだから、よく知らんけど」
「…瑞稀さんと二人で心配してたんだ、ずっと」
「…自分達のわがままで自分の子供を危険な目に遭わせて、もしも失うことになってしまったらどうしようって、ずっと心配だったんだ」
父さんが声のトーンを落とした。
「起きた時、謝罪が受け入れられなかったらどうしよう、性転換に嫌悪感を抱いていたらどうしよう、手術後の拒否反応が起こったらどうしよう、心配の種は尽きなかった」
「…父さん」
「…ご飯を食べながらこんな話はするもんじゃないと思ったから避けたけど、父さん、ずっと不安で不安で仕方なかった。勝利くんに謝るためだけに、こんな卑怯な手に逃げた自分が、今でも許せないんだ」
「瑞稀さんとは、女の子が欲しかったとふざけて見せたが、本当はキミの運動能力を低下させることが目的だった」
…え?
「勝利くんは、とても強いんだろう?お友達の中でも、一番。だから、最終的に一番危険な目に遭うのは、キミだ」
「だから、怖かったんだ…このまま声をかける事も出来ずに、キミを失ってしまうかもしれない!それでも声をかける事すら怖かったんだ!!少なくともあの生活を続ければ、キミは帰ってきてくれる、それだけが救いだった!!でも、そんなのは家族じゃない、キミの支えにはなれない」
「そのために、キミの能力を低下させる口実として、性転換を選んだ。こんな言い方は時代に合ってないかもしれないけど、『女の子になってしまったんだから、力が下がっても仕方がない』と思って欲しかった。とにかくキミを危険から遠ざける絶対的な理由が欲しかったんだ…!」
父さんの目から溢れる涙。
俺の行いが、父さん、母さんをここまで追い詰めてしまっていた。
なんでもっと早く、自分の問題を解決しようとしなかったんだろう。
他人の問題には首を突っ込むのに、自分のことは棚に上げて。
誰かの助けを待っていた?
俺が他人を助けたように、俺も誰かに助けられるのを待っていたのか?
だとすれば、これが『両親からの救い』だったのかもしれない。
「父さん…アタシ、可愛いか?」
「…え」
アタシはその場でクルッと回ってみせた。
「…あぁ、
…とても可愛いよ」
父さんが泣きながら笑ってくれる。
「そうか、良かった。なら、アタシは大丈夫だよ。父さんと母さんの気持ちは、しっかり受け取った!
ありがとう!!」
「…!」
「ちゃんと受け入れたよ、アタシはアタシとして生きていく」
「…勝利くん」
「うぃんちゃん、な?」
精一杯笑って見せる。
「あぁ…!こちらこそありがとう、うぃんちゃん」
父さんがボロボロ泣きながら笑ってくれる。
アタシじゃない、俺の事をしっかり考えてくれていたんだ。
迷いは完全にふっきれた、もう同じ過ちは繰り返さない。