プロローグ
『英雄王戦記』これはこの世界では誰でも知っている御伽噺。
今よりもはるか昔、後に英雄王と呼ばれる、ゼルダ・ノワンという王がいた。彼は、別名、炎陽の王と呼ばれるほど力が強く、民に慕われていた。
ある時、ゼルダは一人の少女に出会った。その少女はただの少女ではなく、リーフローレライという種族の少女であった。リーフローレライは古から存在する古き種族で、歌を歌い、音楽を奏でることで自然の力をかりて生きる、強大な力を持つ者たちであった。その歌や音楽は、人知を超えた美しさと繊細さ、儚さを持つものだという。しかし、彼らの多くが感情を持たない。そのため、寿命が数千年ほどある、長命であろうとも、リーフローレライは滅びの一途をたどっていた。
だが、ゼルダが出会った少女は極めて珍しい、感情のある純血のリーフローレライであった。
この少女の名は、シャルル・ノア。
後に氷月の王と呼ばれる史上最も強いリーフローレライである。
やがて、ゼルダとシャルルは親友になり、シャルルがノクターンと呼ばれる荒れた地に国を築き、その国の王になっても、二人の交流は続いた。
二人の関係は互いにとって良き相談相手でもあり、最も信頼のおける相手であった。
しかし、その平和な日々もシャルルの裏切りによって終わった。
シャルルがゼルダの国に攻め入ってきたのである。
シャルルはゼルダの国の民を虐殺し、ゼルダをも殺そうとしたが、ゼルダによって、討ち取られた。
ゼルダは、最も親しかった親友に裏切られた悲しみにくれながらも必死に国を建て直し、人々に平和を再び取り戻したのである。
シャルルの国であった場所は、かつて荒れた地であったのが嘘のように草木が茂り、けっして人が踏み入ることができないほど深く入り組んだ、広大な森となった。
人々はそれを畏怖を込めてその森を迷いの森と呼ぶ。
それは今もなお、大陸の端に残っている。
まるでかつての王を待ち望むように。