ノウード・タウン【13】
───!?
背筋に怖気が走る。
なぜか悲鳴は口から出なかった。
咄嗟の怪異に恐怖で声が出ないのだ。
こういう不測の事態も想定していたはずなのに、実際目の当たりにすると不思議なぐらい思うように体が動かなくなってしまう。
ただ、このドス黒い強大な魔力には覚えがあった。
握られている氷のように冷たいその蒼白い掌から、重苦しく暗い怨嗟の感情が固い音を立てて私の手にも凍み上がってくる。
その気味の悪さに吐き気が込み上げる。
すると、クン、とその手が私の手を引いたかと思うと、開かれたその本の中に沈み始めた。
私は目を見張る。
ヤバい、引き込まれる───!
振りほどこうにも、まるで蒼白い手の凍てついた皮膚が私の手に凍れついてしまったかのように動かない。
いや、それ以前に力で適う訳が───
「メグ……!」
背後の黒ジャガーが珍しく動揺した様子で叫ぶ。
「凍える動きを止め 仲間を保護し、その束縛の破壊と解放を───!!」
一瞬、私の左手を掴んでいた手の動きが止まるが、その邪悪な魔力の気配がぞわぞわと強まり、再び私をその書物の中に引き込もうとしてくる。
それと同時に書の中から強烈な魔力が吹き出したかと思うと、私の黒い使い魔を吹き飛ばした。
黒ジャガーは悲愴な声を上げ、爆音を立てて本棚をいくつも破壊しながら飛ばされていってしまった。
「弥七!」
そこで初めて私は悲鳴のような叫び声上げる。
や・め・て───!!
「戒めの炎!!」
我を忘れ、自分の手を痛いくらいに握る冷酷な魔力を放つ蒼白い手に向かい詠唱する。
紅い煉獄の焰が私の左手を掴む蒼白い手を包み、白い空間の上空高く火柱を伸ばす。
だが、その蒼白い手は全然動じる事なく、炎に巻かれたまま本の中に沈んでゆき、それと同時に私の魔法の炎も鎮火してしまっていた。
それに落胆し動揺している暇はない。
透かさず私は右手に持っていた魔杖の柄頭を、破れて舞い散る書籍と本棚の瓦礫がある方に向け叫ぶ。
「生命力の回復と完全なる復活! 仲間の保護と防御!」
すると魔鉱石のついた柄頭から乳白色の光が一直線に放たれ、瓦礫の中でぴくりとも動かない梅花紋柄の入った黒い毛皮の主の身体を包んだ。
それを確認し、即私は魔杖を上方に向け次の詠唱に入った。
「澄清なる陽神かつ清泉たる女神スリスよ───この場の幼き者たちにその慈悲深き繊手の癒しを以て怪しき柵から解き放ち、楽しき平原への道標を示し速やかに導き給え!」
再び柄頭の魔鉱石が青白く輝くと、そのまま徐々に大きな光の球となって膨れ上がり、この終わり無き白い空間に広がっていった。
それは時間にして数十秒ほどの出来事だったと思う。
その間にも蒼白い手に掴まれた私の左手はずぶずぶと本のページの中に呑まれてゆき、最後の詠唱時には肩まで本の中に埋まっていた。
「弥七、無事───!?」
顔が本の中に入りかけたところで、私は光を放ち続ける魔杖を上方に向けたまま叫んだ。
『───メグ、オレより自分の心配しろ!』
頭の中に黒ジャガーの低音の渋い声が響いてくる。
あ、良かった……!
無事ではないのだろうが、生きて返事をしてくれている。
私はそれに安堵すると、途端に頭がズンと重苦しくなり体から一気に力が抜けてゆく。
またやっちゃったか……。
一遍に強力な魔法を使い過ぎた反動がきたのだ。
もう、まともに動けないな───
私はそう悟ると心の中から直接、黒い使い魔にひとつお願い事を依頼することにした。
ごめん、弥七───私もう魔力切れ………最後に頼まれてくれない?
里和ちゃんとカイル氏に、ごめんねって───
特にカイルに、傷つけてごめんって。
『馬鹿野郎!! そんなの自分で………!』
そこで私の頭は完全に本に呑まれ、意識はブラックアウトした。
毎度ですが、ルーンは雰囲気だけです
また追記修正すると思いますが、何とぞよしなに
【’24/05/19 加筆修正してます】




