ノウード・タウン【12】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらないと思われた場合、地味に前回お話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
翼持つ黒ジャガーと私は、件の精霊が宿っていると思しき、焦げ茶色した革の表装が施された無数の書物が散乱したとある本棚の一画にふわりと───ここは譲れない場面なので、弥七に急降下しないようがっつりと言い含め───降りた。
その書の精霊の気配がなければ、私達はこの似たような状態が無限に続くシュールな空間の中、際限なく彷徨わされていた事だろう。
偶然とは言え、弥七っつぁんが飛べてホント良かったかも───
私はその蜘蛛の糸の如くか細い気配を辿りながら、落ちている膨大な量のトスリッチ教信者たちの個人情報の冊子をなるべく踏まないよう、マホガニー色の本棚の長すぎる通路を歩いてゆく。
うーん、歩きにくい……軽く端に除けさせてもらうか。
私は柄頭に魔鉱石のついたシダー製の魔杖を自分の行く手に向けて詠唱する。
「自らの意思で迅速な移動を達成せしめよ!」
───りょうかーい!
そんな明るい声が斉唱となって私の頭の中で反響すると同時に、足元に散乱していた大量の書物たちが鳥が羽ばたくように飛び交い始め、次々と本棚に収まってゆく。
「………そこまでお願いしてなかったんだけど」
私が魔杖の柄頭を向けたまま、ぽかーんとしてその光景を眺めていると、右横にいた有翼の使い魔たる黒ジャガーは然もおかしいと言わんばかりに口を開いた。
「メグはえらく書物の精霊たちに好かれちまったみたいだな」
「そう、なの? 私も本読むの好きだから、吝かじゃないんだけど───とにかく、みんなありがとうね」
そういう問題なのか、と首を捻りながらそう礼を述べると、
───どういたしまして!!
再び明るい声が斉唱となって頭の中に返答してくる。
何だか大勢の幼稚園児を相手にしてるような気分になっていた。
昔から子供とケモノには何故か無条件に好かれやすかったけど、そのせいなんだろうか?
「当然、オレ様もメグが好きだぜ?」
不意にからかうような口調で弥七が尾っぽをぱたぱた床に打ちつけながらそんな事を言ってくる。
「もー、勝手に私の心読まないでよ!」
「しょうがないだろ、メグと従魔のオレには特別な絆があるんだから。つか、いい加減あけっ広げ過ぎなんだよ、メグは───って、オレ様の顔をモフモフするんじゃない!」
私が口を尖らせながら両手で黒ジャガーの首元をわしわしと揉んでいたら、すぐにゴロゴロ音がそこから手にダイレクトに響いてきた。
「ふっふっふ……口では嫌がっていても体は正直だね、弥七っつぁん」
「阿呆か、それどころじゃねーだろ。あそこにある本、メグが探してたヤツじゃないのか?」
微妙に恥ずかしそうな調子で黒い使い魔はそう言うと、それでも喉鳴らしを止めずに私の体に尻尾をバシバシと叩きつけてくる。
え───?
そこではたとし、弥七の言う方を見ると、少し先の通路の真ん中辺りに一冊の革表紙の本が鎮座していた。
うわー、何て罠っぽい感じで置いてあるんだろ、あの本。
そうは思うが、それだったら弥七がまず警戒するだろうし───
私はその茶革の冊子に意識を集中する。
エルフのおねーさん、やっと会えたね!
聞き覚えのある明るい少年のような精霊くんの声とその気配───
うん、間違いない!
「はいはい。君に呼ばれたから頑張ってここまで来ましたよ」
独り言ちるようにそう呟くと、私は喉を鳴らす弥七から離れ、そのぽつんと置いてある書物に近づいてゆく。
そしてその前に来ると、魔杖化してしまった魔鉱石のついた左手を翳し詠唱する。
「秘密の解放───」
すると閉じていた分厚い本がバッと開き、バラバラと音を立ててページが捲れてゆく。
そして特定のページでぴたりと止まった。
恐る恐るそこを覗き込むと『G』のページが開かれていて、更に『グロスマン家』の項である事が判った。
私は瞠目して詳しく読もうとその前にしゃがみ込んだ時だった。
そこからいきなり手が飛び出してきて、私の左手をガッと掴んだ。
微修正しました




