ノウード・タウン【8】
精霊の類って言うのは、どうしてこうも明るくて愉快な連中なんだろうか?
それとも、私の時だけたまたま……いや、そんな訳ないか。
ま、とにかく、その魔力の反応的に場所が結構遠そうなのだが、どうにか魔術士ファーマンことマックス坊っちゃんの聖洗名等が書かれていると思しき個人情報台帳が見つかった───と、言うより返事をしてくれたというか。
しかし本当に、私達の言うところの真の名───トスリッチ教での『聖なる名前』は、この書物の中に隠されているのだろうか?
その上この空間には弥七曰く、魔術士たるマックス坊っちゃんの呪いがかけられているらしく、正に今この膨大な長さと大きさの古びた書棚をどう抜け、そこまで辿り着けるかの見当もつけられずにいた。
私はずっと上げっぱなしだった左腕を前後に何度か回し、乳酸が溜まっていると思しき筋肉を軽く解しながら黒い大型ネコ科の従魔に向かって口火を切った。
「弥七、場所は判ったんだけど、どうやってここから目的の場所に行けば───」
「簡単だ。オレ様がメグを乗せて連れてくよ」
「………」
すんとした表情で食い気味に私の使い魔は宣う。
弥七は、大きい───それは飽くまでネコ科の中では、であり、大型獣の中では多分小ぶりの部類に入るはずだ。
少なくとも身長が160cmもない私であっても───体重だってこの体は約400年謎の呪いという不可抗力で眠りっぱなしだったから、ぶっちゃけ悲しいぐらい軽い方だとは思うんだけど───乗せて運べるとは到底思えなかった。
その私の疑いの眼に気づいたのか、黒い使い魔は非常に不服そうな表情になってこう宣言する。
「論より証拠だ───導きの星、変化、解放」
次の瞬間、弥七の黒い梅花紋柄の入った毛皮がモコモコしだしたかと思うと、俄にその体の容積が増してゆく。
うっわっ……… !?
私が目を見張っていると、見る見るうちに体長が4, 5mほどの大きさになってしまった。
でっか!
心なしか迫力まで倍増しになっているような気がする。
一体いくつ隠し球を持ってるんだ、私の従魔は?
「行くぞ、早く乗れ!」
私を乗せるために前足を屈め、偉そうにそう指示する大きくなってしまった黒いネコ科の使い魔に、私は不承不承従ってみせる。
「ハイハイ、判りましたよー、弥七サマ」
大きくなって少々ごわごわ感が増した気がするが、それでも負けぬもふもふ感に内心かなり喜びつつその大きな背中に跨り、落とされないように両手で抱き締めるみたいにしてしがみついた───何せ、サーシャの背に乗った時もかなり怖い目に遭ってるので。
「嫌味を言う余裕があるんなら、大丈夫だな」
弥七はその私の言葉を受け流すように鼻先でふっと笑うと、そのまま本棚の上へ軽々と跳び上がる。
今度はその黒ジャガーの言葉が、ピンポイントでとある人物を妙に彷彿とさせ、途端にその人物が現在いない事実に胸がやたら締めつけられる心地がしていた。
こんな時に阿呆か、私は───
「で、どの辺だ?」
微妙に途方に暮れた様子の声音で、弥七が私に場所を訊いてくる。
そうだ、そんな場合じゃ……!
その声にはっとして顔を上げると、ある程度は想像していたが、眼下に文字通り尋常じゃない場景が広がっていた。
真っ白い闇のような空間に、何処までも果てしなく続く数多の本棚の列───
似た感覚でホワイトアウトは何度か経験した事があるが、吹雪には目があり終わりがある。
しかしこの空間は予想通りではあったが、消失点もなければ地平線も彼方に霞んで全く見えない。
その永々無窮さに、思わずくらっとして黒い梅花紋柄の背中からずり落ちそうになる。
何、この鬼不条理な異空間……。
か細い目的の書の精霊の放つ波動を掴んでなければ、私達はこの場所である意味遭難状態になっているやも知れなかった。
「とりあえず、あっち───」
私は気を取り直してその精霊の居場所(?)を指さす。
どちらが上か下か、右か左か、東西南北か全くさっぱりちっとも判らない場所で、私の頼りがありそで無さそな魔力を当てに先に進む事になった訳なのだが、そこで謀ったようなタイミングで邪魔が入った。
寝落ちミスタッチしまくるので、取り敢えずまた後ほど続き書かせて頂きとう存じます
何とぞよしなに
早速セリフ抜けがありました……申し訳ありません
追記修正してます
【’24/07/13 誤字訂正しました】




