ノウード・タウン【3】
何でトスリッチ教会の中にこんな魔法空間が拡がってるんだろう?
魔杖の柄頭の光を頼りに進むが、まるでその光を吸収しているかのように私達のまわりの暗さは変わらなかった。
時折手を伸ばしてみるが、何の手応えもなく私の手は空を切る。
そこではっとして振り返ると、さっき入ってきたはずの出入り口は忽然と姿を消していた。
もう普通に戻ろうにも戻れない状態だ。
まじかー。
今更ながら自分の迂闊さに絶句する。
もしかして割とあっさり罠か何かに嵌められてる……?
そう思うが、ここまで来たら後の祭りでピーヒャララ。
───さて、どうしよう?
確かこの一神教の宗教団体は、自分たちの信ずる神以外の神は全く信じない、保守的な宗教だったはずなんだけど。
まぁ、今までの経緯から考えれば、自然と魔術士マイケル・ファーマンことマクシム・ジュダ・グロスマン───マックス坊っちゃんに繋がってる訳だから、こんな魔法空間があったとしてもぶっちゃけ不思議はない。
とは言え、今まで散々他の宗教は邪教だなんだと迫害した挙句に、ちゃっかり裏では平然と利用してるんだから呆れたものだ。
「ねぇ、弥七っつぁん。これって、罠だと思う?」
「……まぁ、そうだとしても疑わないよな、普通」
うん、だよね。
「だとしたら、コレって捕まって籠の鳥ってことでオケ?」
「それを言うなら袋の鼠、だろ………ん〜、じゃあ、取り敢えずオレ様が確かめてやるよ」
私のお馬鹿がまた露呈したところで、弥七がそんな事を言い出した。
え、確かめる?
どうやって………??
すると鯖トラ小猫は私の肩からすとんと下に落ちたかと思うと、低音の通る渋い良い声で詠唱する。
「導きの星、変化、解放───」
次の瞬間、私の目の前で見る見るうちに小猫の体は大きくなってゆき、一頭の流麗な肢体を有した黒いネコ科の猛獣が姿を現した。
えっ、えっ………えーーーーーっ!?
私が目を丸くしてガン見していると、黒いネコ科の猛獣は呆れた様子で口を開く。
「何でそんなに驚くんだよ。メグがオレ様を呼んだんだろ?」
「だって、弥七……何で小猫の姿だったの?」
「そりゃ、アンタが勘違いしてたからだろ───この土地にゃ黒豹なんかいないんだよ。いるのはオレ様みたいな黒ジャガーなんだからさ」
………なるほど。
精霊召喚はイメージが物を言う魔法だ。
召喚者のイメージがしっかりしていないと精霊たちは応えてはくれず、結果何も召喚できないまま、ただ膨大な魔力を無駄に消費するだけに終わるという。
今回はたまたま弥七が私に応えてくれた上に、顕現する為にわざわざ私の中にあったひとつのイメージに合わせてくれていたらしいのだ。
要するに、ここに生息していない黒豹を召喚しようとした私が、無知で阿呆だっただけなんスね。
更に、毎度なアクロバティック召喚をする私の特技(?)を加味すると、結果鯖トラ小猫化した弥七っつぁんが出来上がった、みたいな。
自分の莫迦さ加減に思い切り肩を落とす私であった。
しっかし、黒ジャガー弥七───こう書くと何だか戦隊ヒーローかリングネームみたいかも───すんごい格好良いなぁ!
黒豹と比べるとやや骨太でどっしりした感じに見えるけど、艶々した黒い毛並みは綺麗だし、よく見ると黒一辺倒じゃなくて黒豹に似た柄が入っているのが判る───後に知った事だが、梅花紋という斑紋柄らしい。
瞳の色は小猫の時とほぼ同じで楔石のような輝きを持った若草色をしている。
私が陶然と鯖トラ小猫だったとは思えない黒ジャガーを眺めていると、当の本人が居心地悪げに私に向かって口を開いた。
「ま、とにかく。バレたから一応言うが、最初は本来のこの姿にはなれなかったんだよ。それを『反転の滅鎚』魔法使いリワが、オレ用に変身の印章を考えてくれてね。ピンチになってからメグの前で使えって言われててな」
その弥七にしてはやけに歯に何かが挟まってるような物言いに、私の目は点になる。
この後に及んでまた里和ちゃんか………!
どんだけ私を驚かせれば気が済むんだ、あのムスメは!!
つか、いくつ二つ名持ってんだ!
私が美女エルフに対して新たな復讐心にメラメラしていると、弥七はやれやれといった風情で溜め息をついて言う事には───
「まぁ、文句はリワに言ってくれ。それじゃ本来の姿に戻れた記念に一発、かましてやるか!」
【’24/04/26 加筆修正誤字訂正しました】
毎度ですが、ルーンは雰囲気だけなので何とぞよしなに願います




