ノウード・タウン【1】
悩んでもいられないぐらい、時間が矢のように過ぎてゆく。
そして悩む暇も与えられないぐらい、しなければならない事が次から次へとやって来る。
鯖トラ小猫の名前は美女エルフに倣い弥七と命名。
主に私が入り込めない場所をメインに探ってもらっている。
里和ちゃんの言う通り、私が思うほど本当に悪くはなかった。
寧ろ優秀とさえ言っていいぐらいの働きをしてくれている。
安全確保は黙っていてもしてくれて、危険な目に遭う前に回避することが出来た。
その辺は黒髪の青年とやり方が違うだけで、無闇にいざこざに巻き込まれる事なく安心して動けている。
ただ、カイル氏のように闘う事は無理そうなので、私が自分で強くなるか───いや、恐らく体力・物理的に無理な気が………現実的には攻撃型魔法を覚えるとか、かなぁ───新たに戦闘能力の高い使い魔を召喚するかしかなさそうだ………いや、私に上手くそんな使い魔が召喚出来ればの話なんだけども。
私の心配をよそに、鯖トラ小猫は私の左肩に乗ってあれこれとよく喋る。
そこも何だかカイル氏とは対照的な感じだ。
「なぁ、メグ。そのミーシャだかは本当にセレグナ・ソルにいるのか?」
「サーシャだよ……それと、少し声小さくしてね───皆が仕入れてきた情報をまとめて推測する限り、そうみたいだよ。でも、私達には別の重要な役割があるから───」
「だったらメグも思念伝達覚えろよ。あんたの魔法、ムチャクチャだって他の連中から聞いてはいたが、想定以上の出鱈目鰤……もとい、デタラメぶりだな」
「判ってるよ……そのうち必ず覚えるから」
ちくしょー、本人が一番その事で悩んでるのに……!
本日私と弥七は、なぜかオフィス街にあるトスリッチ教アシレマ教会本部が入っている瀟洒な煉瓦造りの大きな建物の中にいた。
巨大なエントランスホールに軽く目眩を覚えながら、私は足早に中央にある階段ホールに向かって歩いてゆく。
ここも絵に描いたような人種や民族、様々な種族の坩堝で、各々が真剣に話し合っていたり、書類片手に談笑していたり、喧々囂々何事か論議し合ったりしている。
現在いる場所はノウード・タウンと呼ばれる地域で、国としては比較的新しいアシレマの中でも最大級のいわゆるビジネス街だ。
街自体アシレマでは歴史があるらしく、中には石造りの古い建築物も少なからず散見され、金融街でもあるこの地域にそれ相応の重厚感を醸し出している。
取り敢えずバレないように、ここら辺でよく見掛けるタイプの服装───専ら皆、民族衣装かつその正装をしている場合が多い───ロイヤルブルーのベルベットのカーディナルマントに、中はチンカラーでベルスリーブかつウエストを軽く絞ってある黒いアシンメトリーロングフレアジャケット、黒のタイトなボトムに駄目押しで黒のレースアップのショートブーツという出で立ちだ。
一応、トスリッチ教本部にはこのオフィス街の信者を網羅できるぐらいの規模の礼拝堂も設えられており、絶えず信者らしき人々が巡礼などで行き交うような場所でもあるので、多くの信者が着用しているカーディナルマント姿であればほぼ怪しまれないとの事で。
無論、エルフである事がバレないようにフードを深めに被っている。
そのフードの中の襟足付近に、使い魔たる鯖トラ小猫を忍ばせていた。
その見た目は小猫、中身はおっさんな従魔が呆れた様子で口を開く。
「しっかし、何でこんなオフィス街にトスリッチ教は本部なんて据えてんだ? 普通は住宅街なんかにあるもんだろ?」
「うーん……詳しくないから正直何とも言えないけど、何か特殊なメリットがあるからなんだろうね」
「金か?」
「身も蓋もない言い方だね。人脈作りとか、そっち方面?」
「平たく言やソレも金だろ」
「……つか、弥七、何でそんな事知ってるの?」
「まぁ、一応オレ様も、ひと頃はアシレマで名の知れた偉大な精霊だったんだ。今や後からのこのこやって来たトスリッチ教にすっかり駆逐されちまったけどな。終いにゃ悪魔扱いだぜ? やってらんねーよな」
それは里和ちゃんも言っていた話だ。
弥七を呼び出した場所は、所謂私達の世界で言うところのパワースポットと呼ばれるような土地柄らしく、アシレマの太古から高密度のエネルギーが今も大地から湧き出してきているのだという。
弥七はそんな古来からいる精霊の中のひとつなのだろう、と。
そういや、マックスの分身もそんなような話だったっけ。
私がぼんやりとそんな事を思い出していると、階段を登りきった奥まった先に、荘厳な金の装飾が施してある白い大きな扉が現れた。
「あれがアシレマのトスリッチ教の心臓部になるんだな?」
弥七が珍しく緊張した様子で口を開いた。
「うん。じゃ、行くよ」
歯痛でしんでました……毎度加筆修正の鬼になりますので何とぞよしなに願います
【24/04/21 加筆修正してます】
【24/04/23 加筆してます】




