アシレマ【8】
「よっ、メグちん達おひさ〜! 蘭丸さんが助っ人に来てあげたよー!」
ライカちゃんお奨めのスイーツの美味しい喫茶店を出た途端、懐かしさすら感じるほど見覚えのあるスレンダーな人物が、左手を腰に当て二本指で敬礼ポーズを取りながら立っていた。
そのインチキ臭いポーズがやけに様になる、里和ちゃんの従者───
「わぁ、蘭丸さん、お久しぶりです」
「あっ、蘭ちゃんだ! 来てくれたんだね。でも、師匠見張って───じゃなくて、放っておいて大丈夫なの?」
私とライカちゃんが駆け寄って行くと、蘭丸さんは白のランタンスリーブでチンカラーのキャバリアブラウスの両手を広げて私達を軽くハグしてくれる。
ボトムは細身の両サイドがレースアップになっている黒のパンツに、足元はヒール高めの白いリングブーツという出で立ちだ。
「誰ですか、このスマートな美人さんは?」
「あー、この囂しい感じ、なっつかしーわ〜!あっちオッサン多めで空気重くってやってらんなくなっちゃって…… カイルも相変わらず暗いねぇ」
「……シメられたいのか、お前」
場が一気に華やかになるムードメーカーの蘭丸さんは、里和ちゃんの従者の中でも一番の古株で、立ち位置的には執事長とでも言うのだろうか?
かと言って出しゃばり過ぎる訳でもなく、静観すべきところはきちんと弁えていて、そそっかしい私の事もニヤニヤしながら生温かく見守ってくれているような人でもある───いや、危険な時はちゃんと助けてくれるんだけども。
ただ、美女エルフ的にはそんな上下関係はまったくちっともさっぱり気にしてはいない模様で、立場上と便宜的に使わざるを得ない程度のものらしい。
ぶっちゃけ、必要ないとさえ思ってるっぽい。
そんな里和ちゃんにいつも冷や汗をかかされている私の兄になってしまったヴィンセントさんが、慌てて里和ちゃんの従者達に取り敢えず役職を割り当てて現在に至るという。
因みに他の従者さん達は普段、方々の国に派遣され情報収集をしているとの事で、私は蘭丸さん以外まだ会った事はなかったりする。
意識的なのかたまたまなのか、美女エルフのまわりはなぜか美男美女だらけだ。
蘭丸さんも漏れなくそうで、白い髪の右はクロムオレンジ、左に黒のメッシュの入った緩いウェービーロングヘアに卵型の小さな顔、ツリ目気味な二重の大きな金緑石のような瞳に細い鼻梁、常に笑みを湛えているかのようなサーモンピンクの唇───まるで蘭丸さんこそヅカ系の美人と言える。
「あっ、そうそう。里和っこには蔵人と銀次つけてきたから、無問題無問題───まあ、もれなく里和っこに散々振り回されんだろうけどね」
里和っこって。
全く主人として敬われてないこの感じに、思わず私は苦笑いする。
蘭丸さんは時々美女エルフの事をそう呼ぶ。
そんな時は大抵何らかの騒ぎや問題を起こした後だ。
そのせいで、恐らく尻拭いに奔走しまくったのであろう事は想像に難くない。
そしてそんなお怒りモードの蘭丸さんに、里和ちゃんが必死になって機嫌を取るというのがいつものパターンだ。
どっちが主人なんだか。
そのおかしな光景を見るたび、こうやってずっと家族みたいに支え合ってきたであろう二人の関係性が面白くもあり羨ましくもあった。
しかし、何で美女エルフの従者さん達って和名がつけられてんだろ?
コードネーム、とか……?
「───で、これがファーマンの分身って訳だ。普段何て呼んでるの?」
その蘭丸さんが鼻息も荒く、背高いファーマンの分身を頭の天辺から爪先まで検分するかのように眺める。
「さっき真の名と一緒につけたばっかなんだけど、ミッシャ」
「へぇ、マックス坊っちゃん、美人からいい名前つけてもらえて良かったじゃん」
「仰られる通り、僥倖ですよ」
「やめてー、蘭丸さんだって美人だし───って、マックス坊っちゃんって?」
「ああ、まだ里和っこ、メグっちに説明してなかったんだね、全く、あのムスメは……! ってか、カイルも何で教えてあげないの!」
「………忘れてた」
「キーッッッ、これだからうちの連中はっ!」
黒髪の青年の一言で、珍しく蘭丸さんがキレていた。
うーん、里和ちゃんとも何があったのやら……。
そこでライカちゃんが楽しげに蘭丸さんに報告してくる。
「だってカイルさん、真夜さんに寄ってくる男の人追っ払うのに忙しかったから、そんな暇無かっt……!」
「黙れ、ライカ」
透かさずそんなライカちゃんを羽交い締めにし、左手で口を塞いでくる。
………誰が収拾つけるんだろう、これ。
何気に遠い目になっていると、蘭丸さんが諦めたように私に向かって口を開いた。
「マイケル・ファーマンの本名はマクシム・ジュダ・グロスマン───グロスマン財団の御子息ってヤツ。まあ、次男坊だけどね」
重複表現誤字脱字等訂正してます
【’24/04/10 かなり加筆修正しました】
また微修正しちゃってます……すみません




