アシレマ【7】
「ええ、『逆転の魔女』の話だと───」
ま・た・里・和・ちゃ・ん・か……!
私は内心うんざりしながら、世界中を暗躍してると思しき『逆転の魔女』一派の所業───もとい、動向を聞くはめ破目になる。
つか、別行動だけど、カイル氏も勿論知ってるんだよ、ね?
もし最初から知ってたとしたら、後で───ふっふっふっふっ……。
ま、とにかく、ファーマンの分身君が言う事には、北の大国アイシュールの北東の避暑地であるオレス・エヨクスラツにあるマーガレット誘拐事件の現場だったアニーレターケ宮殿で、消えた魔術士マイケル・ファーマンを追い掛けようとした時、分身君の前に例によって例のごとく、体半分状態の里和ちゃんが現れたそうだ。
因みに、半分の理由は至極単純で、本体との区別をつけるためと、魔力消費が全身の時より10分の1程度で済むという利便性、それと───驚く人々の顔を見るのが密かな楽しみだそうで……悪趣味ここ極まれり、である。
最小限の労力で最大限の効果を、というのがモットーの彼女らしいやり方である。
それと、魔術士マイケル・ファーマンの分身と里和ちゃんの分身の術はそもそもが違うらしいのだが、それはまた別の話───
「そっか、ファーマン、もう逃げたんだね。流石はあたしの一番弟子だっただけあって、あたし以上に逃げ足が早いわ」
美女エルフは自嘲気味にそう言うと、
「まあ、ダブル君に駄目押しの印章、埋め込ませてもらったんだけど、やっぱ真の名を刻まなきゃ、いわゆる実名じゃ効き目は薄いんだね───仕方ないか。それじゃひとつ、香月に伝言頼める?」
嫣然と小首を傾げ、両手を合わせてそう宣ったという。
おいおい………。
何でいきなり私に矛先向く!?
嫌な予感しかしないのは気のせいでは無いはずだ。
そこで丁度届いたノリーク産の発酵茶を、ファーマンの分身君は白磁のソーサーごと手に取りスマートな所作で一口飲んで喉を潤すと、柔和な微笑みを湛えながら口を開いた。
「私の本体の真の名を探って、私にもう一度印章を刻み直して欲しい、と。やはりその方が魔法としての効果が高いそうなので───それと」
ほら、やっぱり厄介事だ。
私は分身君の話を聞きながらがくりと項垂れる。
「私にも今一度、真の名を与えて欲しいとの御達しがございまして」
「え、分身君にも真の名……?」
「ええ。私にもかつて真実の名前がありまして───今やすっかり忘れ去られてしまいましたが……そういう意味では、私は一度、この世界から消えてしまったようなモノです」
まるで一度死んでしまったような言い種。
なぜか胸がズキリと痛んだ。
いや、本当に私の胸の古疵が痛んでいる───
言わんとしてる事は判るけど、自分でやってよ、里和ちゃん。
賢者一歩手前の魔法使いなんでしょ?
……まあ、アイシュールを始め、各国飛び回ってお偉いおじさん達宥めるのに忙しくてそれどころじゃないのは知ってるけど。
やっぱ約束とやらを忘れた私に対する復讐(?)の一環、なんだろうか───?
………。
…………………。
ええい、うじうじ悩んでても仕方ない……!
ままよ!!
「………うん、判った。分身君の真の名はもう決まってる」
私のその言葉を聞いた瞬間、ファーマンの分身君はどこか安心したような表情になった。
「ありがとうございます、主───しかし、真の名は私には教えないで下さいますか? そして、リワ様にだけお伝え下さい。私はそれで充分です」
その分身君の言葉に私は首を捻る。
「何で?」
すると彼は穏やかで幽かな笑みをその薄めの唇に乗せ言う事には───
「それは魔法使い・リワに訊いて下さい」
えぇ……!?
世界を股にかけた伝言ゲームするの、やめてくんないかな?
誤字訂正追記しました……何か最近、日本語がわやわやな私です(いや、元からか
【’24/04/08 微修正してます】




