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アシレマ【2】


陽光(かが)(さわ)やかな朝だった。


可愛い魔導師見習いのお陰ですっきりさっぱりばっちり体は良くなり、その上体も羽根(はね)のように軽く感じられる。


かなり実用的だと思うので、出来れば九つの薬草の呪文から習った方がいいんじゃないかと思ったのだが、美女エルフから言わせれば()ずは生き残るための魔法から私に学ばせたい、との彼女の意向で、比較的簡単と言われている護身(ごしん)系魔法から学ぶ事になった。


指南(しなん)役はライカちゃんで里和(りわ)ちゃんは補助(ほじょ)的立ち位置になるらしい。


小難(こむずか)しい魔法じゃなきゃいいんだけど……。


何せ理系の里和ちゃんがアレンジしまくっているらしい魔法だ。

鬼文系の私に理解しきれるのだろうか?


私は遠い目になりながら、里和ちゃんの拠点になっている隠された部屋にある広いリビングの、換気のため開け放たれているやはり大きな()き出し窓からゆっくりと外に()み出した。


涼しげな風がさあっと私の(ほお)()で、緑豊かなテラスの奥の林から、キラキラと光の(つぶ)が踊るのを清々(すがすが)しい気分で(なが)めていた。



って、ん───?



そこで私はようやく違和感に気づく。


確か私は、アイラーツァという南の大陸の中央部にある、()()()()()エシラという町の宿屋にいたはずだ。


あそこの(まわ)りは()()()()()()()()()()()はずだ……!



えっ!?



自覚すると途端(とたん)に心臓がばくばくと激しく鼓動(こどう)を打ち始める。



こっ、ここは何処(どこ)なんだ!?



ばっと背後を振り返ると、そこには先ほど出て来た宿屋の大きな窓と、当然のように黒髪の青年が宿屋の石壁に寄り掛かって立っている。


今やその一歩間違えればただのストーカーと(おぼ)しき黒ずくめの青年の姿に心底安堵(あんど)し、それでも何気(なにげ)にこの理解不能な現状はおっかなかったので、慌てて私は(きびす)を返して大股(おおまた)で彼の元まで歩いてゆく。


「戻って来ると思ったよ」


カイル氏はそんな私を見てにやりと笑ったかと思うと、からかうように私に向かってそう言った。


………判ってて黙ってたな。


「何で教えてくれなかったの?」

「いつ気づくか、ライカと()けてた」


な・ん・で・す・と……!


「いや、ライカも言ってたんだけど、この世界に慣れない真夜(マヨ)の新鮮な反応が楽しくて、つい、ね」


……………。


そんな本気で楽しげな黒髪の青年を見上げ、私はむっつりとした表情のまま口を開いた。


「で、ここは、どこ?」

「………西の大陸にあるアシレマっていう国だよ」


その私の抑揚(よくよう)のない言葉の調子に多少(ひる)んだ様子で、カイル氏はあっさりそう教えてくれた。


なるほど───


場所は判った………ただ、聞いたところでその国自体はさっぱりちっともまったく判ってはいないのだけども。


そんな訳で、黒髪の青年が寄り掛かっているグレーの石壁の、彼のウエスト付近に私はバンッと両手を突くと、そのまま互いの体が触れるか触れないかの距離で、その日に焼けて浅黒い端正な顔をじっと見つめる。


「───じゃあ、賭けにはどっちが勝ったの?」


するとカイル氏は切れ長の双眸(そうぼう)を丸くして、軽く肩を(すく)めた。


「………やっぱあんた変わってるよな。(こだわ)るところ、そこじゃないだろ、普通」

「拘ったって現実は何も変わらないし! だったら今の私に重要なのは、()()()()()()()二人の賭けがどうなってるかって事以外に何があるって言うの?」


私が()みつかんばかりに黒髪の青年にそう言い(つの)っていると、今度はそんな私の顔を黙ってじっと見つめだした。


な、何だ、急に───


木々の隙間(すきま)から光の粒が降り(そそ)ぎ、風で時折(ときおり)揺れるカイル氏の(カラス)濡羽色(ぬればいろ)の黒髪に緑の輝きを(きら)めかせる。


その長めの前髪から(のぞ)くブラックオパールのような瞳が妖しい光を放つ。


カイル氏の睫毛(まつげ)、意外に長くてキレイかも……。


意識の遠くの方で私がそんな事を考えていると、何かに()かれたみたいな表情になった黒髪の青年がぼそっと一言口走った。


「そんな風にされると───」


それまで組んでいた彼の両手が(おもむ)ろに私に向かって伸びてくる。


これはマズい、かも……!


私ははっとして反射的に石壁から両手を離したが、時(すで)に遅し───


そこで咄嗟(とっさ)に私は叫ぶ。


停止(イサ)防御(エイワズ)束縛(ナウシズ)保護(アルジズ)!!」


一瞬、私達のまわりを緑の濃い風がざあっと吹き荒れる。


「………何してるんですか、二人とも」


気づくと私が出て来たリビングの掃き出し窓から、紫紺(しこん)色の魔導服姿の金髪ウェービーヘアの美少女が、黄水晶(シトリン)色の大きな瞳をキラキラさせながらそんな私達を見ていた。


「あ、いや、別に、何も───」


眼前近くに迫るカイル氏の顔を自分の両手でガードした状態で言うには、地味に無理のある言い訳であった。

無論、黒髪の青年は両手を前に出したおかしな体勢で固まっている。

そこで私は開き直ってにこやかに口を開いた。


「でね、ライカちゃん。カイル氏との賭け、どっちが勝ったの?」


少々修正中です


【’24/03/31 かなり加筆してます】

毎度ルーンは雰囲気だけです……何とぞよしなに

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