アシレマ【蛇足】
「はいはい、判ったよ。おっかねーな、ライカは」
黒髪の青年は苦笑しながら、傍らでぷんすこ怒っている金髪ウェイビーヘアの少女の頭を、左手でぽんぽんと軽く叩く。
するとライカちゃんは何故か更に怒った様子でカイル氏のその手を避け、妙に早口で言い募り始める。
「私もカイルさんと同じく、ヴィンセント様から直々に真夜さんを頼むと言われてるんですからね! そうじゃなくても、あのアイシュールのアヤシイ宮殿のイカガワシイ部屋で毒薬みたいな媚薬嗅がされちゃってたんですから、一刻も早く解毒しないと!!」
可憐な美少女の桃色の唇からい不穏な言葉が矢継ぎ早に飛び出し、私はぽかーんが止まらなかった。
毒薬に、び、媚薬!?
確かにあの猥りがわしい派手な寝室には変なデザインの金ピカ香炉が置いてあって、そこから胸がムカムカするような香料のきつい煙を漂わせていたのを思い出す。
今思うとやたら目眩とかが酷かったし、もしかしたらその所為もあったのだろうか?
しかし一服盛ってまでモテたい(?)っつーか、そんな事したいモンなんっスかね……。
そっか、媚薬、ね……だからあの時あんな状況にも拘らず黒髪の青年をあんなに意識しちゃってたのかも───いや、カイル氏は文句なくモデル張りのイケメンなんだけども。
その事実に複雑な心境になっていると、ライカちゃんは私の寝ているベッド横にあったサイドテーブルにトレイを置き、柄頭に黄水晶を頂いた大きめの白樺の魔杖を右手にぱっと出現させると、看護師よろしく優しい笑顔を浮かべながらこう宣った。
「じゃあ、お水飲まれたら、早速解毒させてもらいますね。なるべく一杯飲んで下さい。悪いモノは全部尿にして出しましょう!」
お嬢さん、尿って……。
私がその可愛い魔導師見習いの勢いに押されながら、それでもゆっくりとベッドから身を起こそうとすると、それまで黙って私達を見守っていた黒髪の青年がすっと私に左手を差し伸べ、右手で私の背中を支えながらそっと起きるのを助けてくれる。
そのカイル氏の大きめだが意外にほっそりとしている掌に右手を乗せると、そこですっと身を寄せコソっと私に耳打ちしてきた。
「ライカ、子供扱いされんの凄く嫌がるんだ……オムツしてる時から知ってるし、ついね」
それに思わず笑みこぼれてしまう。
十代あるあるだなぁ、と。
でもライカちゃんは私から見ればとてもしっかりした女の子だと思うので、他にも子供扱いされたくない理由がありそうだった。
それはさて置き、テキパキと硝子の水差しからグラスに水を注ぎ、私にそれを渡してくる可愛い魔導師見習いに向かってひとつの懸念を口にする。
「ライカちゃん、1杯でいいの?」
「1杯じゃなくて一杯───沢山って事ですよ」
「ハイ、センセ……ちょっとボケてみたかっただけです」
私は以前受けた検査を思い出し、思わずはぁと溜め息をつく。
まさか2リットル飲めとか言わないよね。
結構大きめなグラスに入った水を飲みながら怖い考えになっていると、そんな私の横で魔導師見習いの少女は黄水晶のついた魔杖の柄頭を私に向け、詠唱を開始するのであった。
結局、一杯の水とやらは、所謂水分補給よりちょっと多いかなー程度飲むだけで事なきを得、更にライカちゃんの調合したハーブティーを飲んで九つの薬草の呪文を唱えてもらって解毒は完了した。
無論、九つの薬草の呪文は里和ちゃんが研究したのち、今の世界に合うように───と、言う建前で───鬼アレンジしているらしいのだが……。
とにかく、そのお陰で私はすっかり元気になれた。
美女エルフの開発した医療系魔法で命拾いしている人々は、ミズガルズに少なからずいるらしいのだが、それを阻む既得権益支配者層もやはり相当数存在するらしい。
因みに、里和ちゃんはちゃんとその医療系魔法も特許等の制度を作って商売にしているという。
ちゃっかりしていると言うか、何と言うか───
とは言え、権力者や金持ちからはがっぽりと、弱者からはほぼお金を取らないようにしているという。
そういうところはホント尊敬出来るんだけどなぁ。
ただそういう事をしていると、ライバル商売からは良く思われないのも世の常───そんな連中をかき集めた一部の既得権者の嫌がらせや横槍は続いているとの事。
そんな事したって誰も仕合せにはならないのに、と個人的には思うんだけども。
××××××××××× 閑話休題 ×××××××××××
【’24/03/30 かなり加筆修正しました】
また地味に加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【’24/04/04 脱字重複表現修正しました】




