アシレマ【1】
目が覚めると、静寂に包まれた広めでシンプルな明るい雰囲気の部屋に私は寝かされていた。
心做しか空気も清浄で軽やかに感じる。
あれ、ここは───?
「あっ、真夜さん! 気づかれましたか!?」
更に聞き覚えのありまくりなアニメ声の少女が、紫紺色の魔導服を身に纏い、慌てた様子でこの部屋の開け放たれたドアから私の元へ駆け込んでくる。
「ライカちゃん……」
「怖い思いされたんですね……かなり魘されてましたよ。喉乾いてませんか? 今お水持ってきますね!」
元気よくそう言うと、魔導師見習いの少女時代は身を翻し勢いよく部屋から出ていった。
そう言われてみれば確かに、凄く嫌な夢を見ていたような気がする。
それ以上に、あれが全部夢だったらいいのにとすら思ってしまっていた。
私の記憶に間違えがなければ、ここは南方の大陸の国アイラーツァ中央部の荒野にあるエシラという町の、里和ちゃんの拠点になっている宿屋の一室だ。
アイラーツァに戻って来たのか……。
何となくほっとしたような、がっかりしたような、変な気分だった。
やけに静かだから、ここには里和ちゃん達はいないのだろう。
アイシュールの後始末でそれどころじゃないはずだし。
この部屋にはシングルサイズのベッドが3台並んでおり、その窓際の1台に私は横たわっていた。
気づくと服装も白のリネンの寝間着に着替えさせられている。
きっとライカちゃんがやってくれたのかな───あのおかしな格好には随分驚いただろうけど……つか、ぶっちゃけ見られたくなかった。
いや、おかしなところで落ち込んでいる場合じゃない。
まだ頭に霧がかかってるような感じだったが、とにかくサーシャが心配だった。
「起きたか」
ライカちゃんが出ていったドアから、愛想の欠片も感じられない声が飛んで来る。
黒髪の青年が珍しく心配そうな表情でそこに佇んでいた。
「具合はどうだ?」
彼にしてはやけに優しい口調でそう言うと、ゆっくりと私が寝ているベッドの脇まで歩いてくる。
「大丈夫───色々迷惑かけて申し訳ない、です……」
「ばっ、何言ってんだよ! 寧ろ逆だろ? リワのせいで酷い目に遭ったのはあんただ。今回は流石にヴィンにこっぴどく説教されてたぞ、リワ」
その言葉に私は目を丸くする。
ヴィンセントさんが里和ちゃんに説教するんだー……。
見たかったなー、それ。
その姿を想像し思わず笑みこぼれていると、そんな私にカイル氏が切れ長の双眸を少し綻ばせたように見えた。
今度はその黒髪の青年にどきりとする。
……もしかして、元気づけようとしてくれて、る?
その私の視線に居心地の悪さを感じたのか、黒髪の青年は徐ろに視線を外し、少々慌てた様子で言葉を続けた。
「その上、サーシャが連れ去られちまうし……それもリワが無茶した結果だからな」
そうだ、サーシャ……でもどういう事だろ?
「いつもバタバタしてて碌に説明する暇が無かったのも悪かったんだが───」
今回は無口でぶっきら棒なカイル氏には珍しく、懇切丁寧に説明してくれた。
要するに、ここ十数年の間に起こっていたミズガルズの騒動で必ず名前が上がっていたのがマイケル・ファーマンと呼ばれていた謎の魔術士で、里和ちゃん達はをずっと彼を追っていたのだという。
しかしかなり狡賢い奴で、なかなか尻尾を掴めずにいたのだが、つい最近私達が被害に遭ったアールヴヘイムでの騒動もその男がやっていたという事が判明し、流石の里和ちゃんも怒り心頭したらしい。
そこで奴を罠に嵌める事を思いつき、約400年眠り続けていたマーガレットさんが目覚めたとワザと噂を流し、里和ちゃんは魔術士マイケル・ファーマンが釣れるのを待っていた、と───
その正体にとてもがっかりし驚きもしたが、判ってみれば手口から何から成程納得な正体だった訳で。
因みにアールヴヘイムの謎の黒モヤ悪霊(?)は、ファーマンが呪いをかけた悲しみの妖精のバンシーだったという。
そこまで黒髪の青年が説明してくれたところで、硝子製の水差しとグラスを木製のトレイに乗せて持ってきてくれた可愛い魔導師見習いが駆け込んてきて叫んだ。
「何やってんですか、カイルさん! 真夜さんは疲れてるんですよ!?」
×HKの『○IFE』見ながら書いてたんですが、カイルの台詞を□瀬アリスちゃんの「気分はどう?」と書きたくなって仕方なかった私です
【’24/03/28 追記修正してます】
【’24/03/29 誤字脱字修正してます】
【’24/03/30 追記修正してます】




