アイシュール【11】
「……何、あれ?」
「今回のメグ誘拐事件の主犯格連中」
黒髪の青年が事も無げに事実だけを伝えてくれた。
えぇ………!?
私は胡乱げな表情になり、美女エルフ御一行が囲んでいる見るからに金と権力を恣にしていそうな中年初老なお歴々が、青ざめた顔で座り込んでいるのを眺める。
何がどうしてこんな状況になっているのか?
普通だったら一国の要人達がこんな状態になってしまったら只じゃ済まないはずだ。
でも見る限り現状は逆転しているように見受けられる。
その周囲をよく見ると、無駄にだだっ広く金色に過剰装飾な謁見の間のそこかしこに、近衛兵らしき凡そ実戦的ではない派手な隊服の兵士が方々で倒れていた───ざっと目算で百数十人はいるだろうか?
え……まさか死んでないよね、この衛兵さんたち?
里和ちゃん達がそんな真似する訳がないとは思うが、流石にこの一見屍累々な光景を見せられると不安になってしまう。
恐らく宮殿内外を警護していたほぼ全ての衛兵がここで倒れていそうだった。
他の隊士や兵士達が雪崩れ込んで来ないのは、ある意味皇帝を含む要人達がここで人質化してしまっているために他ならない。
いや、それとも───?
まさかなぁ、と思いつつ、私はまだ魔力を使い過ぎたダメージでくらくらする頭を軽く振りながら、平気で私を抱き上げたままでいたカイル氏に頼んでゆっくりと下に降ろしてもらう。
こんなあからさまなお姫様抱っこ状態でいたら、里和ちゃんにニヤニヤされてまた何を言われるか判らないし、自分的にさっきの鬼勘違いが気恥ずかしかったから───って言っても、あの現場で私以外の誰もそんな事気づいてはいないだろうけど、そんな問題でもなかったり。
とは言え、微妙に前後左右にフラフラと揺れていた私の有り様を見兼ねたのか、黒髪の青年は黙って私の体を自分に寄り掛からせ、右手で私の肩を支えてくれた。
こんな事があるたび毎回申し訳ないと思いつつ、それに甘えて私は支えきれない自分の体をカイル氏に預け、蝉が大木にしがみつくみたいにして眼前に広がる地味に異様な眺めに息を詰めて見入っていた。
腰を抜かしているお偉方のひとり、カールした白髪を濃紺のベルベットのリボンで後方に結わえ、紅赤のシルク地に金糸とクリスタル硝子のビーズで驕奢な刺繍の施されたジュストコールを羽織った、でっぷりとお腹の突き出た初老と思しき貴人が、ぶるぶると身を震わせながらそれでも威厳を保つべくやたら上ずった大声で反論を始める。
「な、何の話だ!? 逆転の魔女リワ・エイル・ギネヴィア───こんな真似して、タダで済むと思っておるのか!?」
逆転の魔女?
さっきもマイコー某の分身君がそんなこと言ってたな……里和ちゃん、アイシュールでそう呼ばれてるのかな?
「ええ、ええ───タダで済むなんてお思いになられてないハズですよね、パーヴェル皇帝陛下?」
皇帝陛下!?
あのオジさんがこの国の?
よく見ると傍らに、プラチナシルバーの土台の中に赤いベルベットのキャップ、ダイヤや真珠を贅沢に散りばめた花芽の出ているリトープスみたいな形の、トップに血のような赤い大きな宝石を戴いた豪贅な帝冠が転がっていた。
うーん?
でも何だか双方話が噛み合ってるようでほぼ噛み合ってないぞ。
「陛下のお祖父様やお父上様───先帝陛下との約定、反故になさると言う事で宜しいんですね?」
「…………」
黙ったまま目を泳がす中年初老の面々に、美女エルフの背後から、ゆらりと怒りのオーラが立ち上ったように見えた。
彼女の小柄な体がぶわっと一際大きくなった錯覚をしてしまうほどに。
パーヴェル皇帝はその彼女の憤怒の迫力に、ぽっちゃり肉垂れした顔に滝のような汗をかき始める。
「わたくし共と敵対なさるという事は、そう言う事なのですよ?」
「い、いや、それとこれとは───」
「話は別ではごさいませんよ、パーヴェル皇帝陛下。わたくしの肉親に等しい者に害を加えようと手を下されたのです。既に何処かへ拐かされ行方不明になってしまった者もおります。その所為でこの国の民を危険な状態に陥れ、延いては世界を争乱の危機にまで陥れようとされたのです」
「ま、待ってくれ……! 余にそのようなつもりは───!!」
そこで里和ちゃんはその麗しい白貌に聖母の如き微笑みを浮かべると、
「では、この度出たわたくし共の損害の賠償、まるっとお支払いして頂けますね? それと新たに条文を加えて和平条約を結んで頂き、パーヴェル皇帝陛下にも退位して頂きます───それで私がアイシュールを滅ぼす事はなしに致しましょう」
矢継ぎ早にそう宣言するのだった。
何か、どっちが悪党なのか判らなくなってきた……。
また後ほど続き書かせて頂きとう存じます
何とぞよしなに
【’24/03/26 加筆修正してます】
重複表現誤字等微修正してます




