ティル・ナ・ノーグ【5】
「じゃ、皆を放置プレイしたお詫びにあたしが呼んでくるよ!」
里和ちゃんと思しきエルフがテヘペロした後、手を振りながら一瞬にして私達の前からかき消える。
その信じられない光景に私はびくりとし、また思わず上体を起こそうとしてしまったのだが、途端に体に稲妻みたいな痛みが走り、当然身を起こせずそのままベッドに沈み込んで苦悶の声を上げた。
ったく、何だ、あの無駄にあざとい態度は!
しっかし、この体の痛みって、一体……?
「だ、大丈夫ですか!? メグ……じゃありませんね、えぇっ……と、カヅキ、さん───?」
傍らの鮮麗な美青年がオロオロしながら口を開く。
二人きりになってしまったメルヘン成分過多の室内で、多少ドギマギしながら私はちらりと美声の主に視線を移した。
いっやー、見れば見るほど綺麗な人だなぁ。
我知らず見惚れながら、まさか里和ちゃんと思しきの彼氏かなんかなのだろうか、と内心ゲスに勘繰ってみる。
まさかなぁ……里和ちゃん、渋好みだったハズだし。
あ、もしや、エルフだから1000歳とか優に越えて───たとしても、俳優の△林薫さんとは全然タイプが違うスーパーウルトライケメンだしなぁ。
考えても仕方なし、と苦笑しながら私は自己紹介する事にした。
「真夜です。香月真夜───あ、マヨ・カヅキと言った方がいいの、かな?」
「では、真夜さん。無理しないで。私はヴィンセント・グリフィス・オハラと申します。リワの話だと貴方は僕らとは違って、彼女の魔法で無理矢理こちら側へ引っ張ってきたらしいので」
うーん?
さっき美女エルフが同じような事言ってたけど……。
「それってどういう───?」
「普通はこんな魔法も、況してや一介の魔法使いがたったひとりで出来る芸当でもないんです。何せ、彼女自らが編み出した方法なんですから」
何ですと?
「えーと、ソレって、私の他にも同じような人とか」
「貴方が初めてです」
うん?
「初めて?」
「はい、今回の『対人入魂魔法』の最初の成功例になりますね」
「……ん〜??」
つまり、何かで予めテストした訳じゃなく───と、言うより、私でいきなり実験的にやってみた、的な?
「本当ですか?」
「本当です」
高雅絢爛な美青年エルフが鬼真面目な表情でそう答える。
それもまた絵になるのだから美形は得だ。
失敗したらどうするつもりだったんだ、あのムスメは……。
つか、失敗したらどうなってたんだろ?
また背筋がうそ寒くなる。
と、それより───
「あの〜……私、ずっとこのままなんですか、ね? そもそもここは何なんですか?」
すると相手は綺麗な金眉を僅かに顰め、その通る美声で非常に言いづらそうに口を開いた。
「真夜さんには申し訳ないが、恐らく貴方は私の妹のままこちらの世界にいてもらわなければなりません」
その流露な言葉に頭をガツンと殴られたような気がした。
う? 妹!?
この体、この人の妹さん───!?
うわ、私にこんな美しい兄が出来るとは……じゃなくって、やっぱ元には戻れないんだ……。
つか、ニウ・ヘイマールって、何処ですか?
薄々そうじゃないかとは思っていたが、自分が思ってる以上に自分がショックを受けてるのを遠くの方で感じていた。
とは言え、現状が異常過ぎて実感はまだまだ追いついていない感じだった。
「……なぜ、こんな事に?」
思わずそう呟くと、私の体の主の美麗な兄が、心底申し訳なさそうにその聴色の薄めの唇で訥々と話し始めた。
「本当に真夜さんには謝っても謝りきれません……原因は私の父にかけられそうになった死の呪詛魔法のせいなんです。結果、関係のない貴方を巻き込んでしまう形をとるしか方法はなく───それとリワが、貴方が一番適任者だと非常に強く推してきまして」
はぁ、とかなり気の抜けた返事をしながら、なぜか私は全く別の事を考えてしまっていた。
ってか、『対人入魂魔法』って名前、地味にダサくない?
北欧神話沼から戻って参りました……またすぐに戻ります
ありがとう、Wikipediaとググるさん
こんにちは、論文沼……
【参考引用元】
『Academic Accelerator』https://academic-accelerator.com
『伝統色のいろは(日本の色・和色)』https://irocore.com/
非常に助かりました
ありがとうごさいます(^_^