アイシュール【9】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回に新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
ファーマンの分身は言い終わるや否や、背後から私を抱え上げ逃げようとしていた本体の両手首をガッと掴み、
「まずは主を放して頂きましょうかね」
と相変わらず愛想のいい笑顔で本体を牽制したかと思うと、その掴んだ両手から蛍光オレンジの光が漏れ出したと同時に、何かを焼くジリジリした音と饐えたような焦げ臭さが私の鼻孔を刺激する。
甲高い叫び声と共に、背後から私に掛けられていた気色の悪かった戒めは一気に解かれ、そのまま倒れ込むように二人の間から逃れた。
重い息苦しさからようやく逃れ、私の肺は新鮮な空気を貪るように激しく吸い込んだ。
金属音に似た耳鳴りが外界の音を私から切り離す。
本気で意識的に強力な魔法を使ったせいなのか、思った以上に体はダメージを受けていて、全身冷や汗をかき、酸欠状態で目の前にチカチカとメタルの星がチラついている。
だ、駄目だ、こんなんじゃ───サーシャを助けなきゃならないのに……!
我ながら無茶苦茶情けない格好で這うように金銀装飾の壁まで歩いて行き、そこに縋りつくようにして凭れかかると、ゼリー状に濁る視界に魔術士と思しき男性二人が魔法を使いながら激しく交戦しているのが見えた。
自分が実行した魔法とはいえ、かなり奇怪な光景が眼前で繰り広げられていた。
分身のはずなのだが、二人の見た目はまるでフィルムのポジとネガのようだった。
顔形や体格、仕草や癖、攻撃の仕方などは非常に似ているのだが、その外見が象徴しているかのように根本的な何かが違っているのだ。
よく見ると、魔術士ファーマン某は楽しそうにそんな自分の分身と闘っている。
それどころか、ファーマンの分身の方が段々と押されだしている───?
やっぱ私のつけ焼き刃的魔法じゃ駄目なのか……。
自分の不甲斐なさに私が打ちのめされそうになった時だった。
「あ〜……よく頑張ったけど、ファーマンって偽名使ってるんだよ、香月」
聞き慣れたちょっとキンキンした高さのソプラノが、私の左横から聞こえてくる。
え───?
その声のした方を見ると、美女エルフが壁から半分出た状態で、よっ、と右手を上げて微笑んでいた。
その毎度不気味な出方に、私は引き攣り笑いを冷や汗だらけの顔に貼りつけ、壁に凭れたまま腰を抜かしたみたいにヘナヘナと座り込む。
彼女の顔を見た途端、ぶっちゃけ安心してしまったのだ。
………里和ちゃん、何でいつも半分でしか出てこないの?
「あらら、大丈夫? もしかして怪我とかしちゃった?」
「怪我はしてないけど、サーシャが……」
「ダイジョブダイジョブ! あたしはアイツの正体知ってるし、隠れ家の見当もついてる」
「えぇっ? 何それホント!?」
「ホントホント。今、アイシュールの皇帝パーヴェル16世とグロスマン財団のアイシュール支部長のニコライ達をシメてる……もとい、尋問してる最中だから」
「……………」
一体どういう事なんだ?
グロスマン財団って前も聞いたな……。
里和ちゃんとどういう関係なんだろ?
つか、大国の皇帝ってそんな簡単にシメられる、の───?
こちらに来てから訊きたい事は山ほどあるけど、悲しいかな今はそれどころじゃない。
「ま、とにかく、どうやら今回の黒幕らしいマイコー坊っちゃんをどうにかしときますかー!」
え、坊っちゃん??
里和ちゃんはそう言うと、黒のフードつきドルイドマントから柄頭に霊耀なクリスタルの原石のついたオークの魔杖を取り出し、完全に押されだし今にも負けそうになっているファーマン某の分身に向けて詠唱を始める。
「冥府の東方を支配する鼻祖の王たるバエルよ! その数多ある賢知を以ちてその者を救け、彼の者を討ち完膚無きまでに敗績せしめよ!」
ファーマンの分身のスーツの背に鮮血のような色合いの光の印章が浮かび上がり、彼の体に染み込むように消えてゆく。
それと同時に分身の奥目がちの両眼が、先ほどの光の印章と同じ色に鋭く輝いた。
「逆転の魔女の仰せのままに───」
最近体調不良と言うか脳疲労が取れにくくてなかなか早く書けなくなってます
それでもよろしかったらまったり生温かく見守って頂けると非常に助かります
またボチボチ加筆修正してしまいますので、何とぞよしなに
【24/03/21 加筆修正中です】
【24/03/22 加筆修正してます】
【24/03/23 微修正しました】




