アイシュール【7】
と、啖呵を切ったとは言え、現状は───
鳥の翼が生えたでっかいギョロ目の謎の狂犬が、低く唸りながら私達を頭上から威嚇してくれていた訳で。
うーん……どうすべ?
そこで当然のように黒髪の青年が私の前に出てくる。
ここまで来るとすっかりさっぱりかっきり一種の様式美だ。
「真夜、カーシモラルは俺が引き受ける。とにかくこの部屋から出て、リワ達と合流して逃げるんだ」
えっ、サーシャは?
一瞬そう思うが、相変わらず私は拐かされた挙句、変態の慰み者にされそうになった立場上、こんな半裸のコスプレ姿でそんな偉そうな我儘が言える訳もなく……。
あぁ、情けなし。
「里和ちゃん達、来てるの?」
「……来るだろ、普通。じゃなきゃ俺もここに来られねぇし───って、四の五の言ってないで逃げるんだよ!」
あわわ、また怒らせた……!
そうこうしているうちに、巨大羽根つきギョロ目ワンコが唸りを上げて飛び掛かってきた。
カイル氏は舌打ちしながら、私に羽織らせた黒のフードつきコートの懐に左手を突っ込んできたので、驚いて身を引いて思わずグーパンチを彼に向かって放っていた。
しかし相手もそこは予想していたのか、あっさりとそれは躱され、私の胸元からあり得ない物体を引き抜いた。
そしてそのままの勢いで、眼前まで迫って来ていたカーシモラルに向かって横薙ぎに振り払われる。
室内に巨大な羽根のついた狂犬の悲痛な叫びが反響する。
見事一撃で、彼はカーシモラルの両目を斬り裂いていた。
そこからタールのような体液が流れだし、カーシモラルは地鳴りに似た雄叫びを上げながらのたうち回りだす。
黒髪の青年の左手には、白く光り輝くバスタードソードが握られていた。
よく見ると、握られている柄頭に遊色が綺麗な石が嵌め込まれている。
どこかで見たような……?
「早く行け! リワ達は廊下を左に突っ切った先の大広間にいるはずだ」
カイル氏はそう私に叫ぶと、再び羽根つき魔犬に向かって剣を振り上げながら飛び掛かっていった。
私は動揺したまま頷くと、闘っている彼らの横をそそくさとすり抜け、黒髪の青年が派手に壊した扉から廊下に走り出る。
金の装飾が毳々しいのに変に薄暗さのある廊下を、言われた通り左手に向って走りながら、さっきの不愉快な光景がフラッシュバックしてきた。
ごめん、サーシャ。
絶対助けに行くからね!
とにかく、あの外見だけはイケおじっぽい魔術士のマイケル・ファーマンだかのサーシャに対する態度が、何か、個人的に好きになれなかった。
何て言うか、妙なネチっこさを感じてしまったのだ。
っつーか、思い出すだけで何かこう、沸々とした怒りが腹の底から吹き上がってくる。
まるでサーシャを物のように扱い、その所有権を主張してくる図々しい物言い───
今に目にもの見せてやる!
しかし今回、自分の正体はバレてはいなかった事に少々ほっとしていた。
とは言え、マーガレットさんの件自体はどこからか漏れている。
まだサーシャには話していないし、恐らくあの竜が犯人とは思い難い。
何せサーシャが嘘をつくと判りやすく無口になり、その上私の事を普段『メグっち』と呼ぶのに急に呼び捨てになったりする、余りにも判りやすい反応をしていた訳で。
それにまだ経緯を詳しく訊けてないけど、里和ちゃんやヴィンセントさんと一時期暮らしてて、二人の事を親のように慕ってたみたいだし。
私達の時間軸から考えると、まだサーシャは未成年者ぐらいの感じに思える。
平たく言えば、私が結果あの黒竜を懐柔したにしても、それに因る絆が出来てしまっているからだとしても、今や短期間とはいえ私にとってあの子は可愛い弟か妹同然の立ち位置にいるのだ。
それに───
私が着ている悪趣味なメタルビキニの胸の谷間に、いつの間にかサーシャが強力な魔鉱石のオパールを入れてくれていたと言う事実。
だから私は水竜の精を難なく呼び出せたんだと思う。
自分の身の危険も顧みずに、サーシャってば………!
とにかく今は、里和ちゃん達の所へ!
あの気取った魔術士のマイコー何ちゃらを懲らしめるために!!
そして漏れなくド派手でデカい扉の前に到着する。
私がその蔦模様が施されたドアノブに手をかけた時だった。
「意外と早かったね、マーガレットさん」
背後からそんなぞっとする口調の言葉が投げかけられた。
結構細かい所を直してますが、お気になさらずに
【24/03/17】ちまちま訂正とかしてます……何とぞよしなに




