アイシュール【5】
ドガーン!!
先ほどサーシャが入ってきた贅豪諠爛な扉が、外側から吹き飛ばされるように破壊される。
私が驚いてそちらに視線を移すと、そこには肩で大きく息をしている全身黒ずくめ青年が鬼の形相で佇んでいた。
「やあ、カイル! 随分と早かっ───」
次の瞬間、一陣の風と共に茶髪の竜人はふっ飛ばされていた。
どぉーん………!
室内の派手な装飾の暖炉を破壊しながら、更にフローラルパターンの壁に体をめり込ませる。
サーシャ!
私は一気に青ざめ、ばっと身を起こす。
気づけばいつの間にか私のいるベッドの傍らに黒髪の青年が立っており、凄絶な怒りの色をそのファイアオパールの如き瞳に浮かべ、サーシャを睨みつけていた。
「よくもお前、メグを───!」
更にカイル氏は追い打ちをかけようと、その全身に怒りの気魄を漲らせている。
そこで漸くはっとして、私はその黒髪の青年の右手を掴む。
「待った!」
すると今度はギッと私を睨みつけ、その私の手を振りほどく。
こんなに怒りに身を任せているカイル氏を初めて見た。
普段はどんな状況でもどこか冷めた目をし、世情から一線を画しているような風情の人なのに───
最初から私にも恐い人ではあったが、それは周りの事を考えて敢えてそんな立ち回りをしてしまうような、そんな不器用な優しさのある人だと気づいてから、いつの間にか私は彼が怖くはなくなっていた。
だから、止めないと!
こんなのきっと、絶対に後悔する。
私はそんな黒髪の青年の前に立って両手を広げ、それ以上の怒りの行使をさせないよう妨げる。
「───どけ!!」
「どかない」
しかしそんな私になどお構いなく、カイル氏は冷徹な瞳で私を見下ろしたかと思うと、私を避けて茶髪の竜人の方に行こうとした。
「待って! サーシャは敵じゃない!」
「まだそんな寝惚けた事言ってんのか、あんたは!?」
「寝惚けてない!」
それ以上憎しみに心を支配されてしまえば、今回私を餌に里和ちゃんを誘き出そうとしてる連中と同じになってしまう。
そして、エシラの宿屋で私を庇って頭を打ってしまった時の事を思い出す。
頭に怪我がないか、私が彼の黒髪の頭を確認していた時に気づいてしまった事───
「ごめんなさい! 私がこの世界に無知で、ぼんやりしてるから、カイルにストレス抱え込ませてたんだね……本当にごめんなさい」
その私の言葉にかなり面食らった様子で、黒髪の青年のサーシャへの怒りの感情がゆらりと傾いていた。
「……真夜」
やがて瞳に怒りの色は消え、いつもの彼の宇宙の深淵のような輝きの瞳に戻っていた。
それを見て、私はほっと胸を撫で下ろした。
しかし、何でそんなに怒ってたんだろ?
「良かった、無事で───」
カイル氏は独り言ちるようにそう言うと、私の予想を裏切る行動に出た。
ふわりと何かが私を包んだ。
「あいつが坑道でおかしな事言うから………」
再び私の左耳元で、黒髪の青年が疲れたようにそんな言葉を漏らす。
「おかしな事って?」
「『早く助けに来ないとメグを食べちゃうぞ』とか言ってたんだよ」
「………」
サーシャの言う食べるって、どっちの意味なんだろ?
「感動の再会に水を差すようで悪いが、ブラック・ドラゴンは返してもらうよ」
唐突に、そんな言葉の中身とは裏腹で変に威圧的な声が室内に響き渡る。
ぎょっとして私とカイル氏はその声の方に慌てて振り返った。
睡魔せん……また後で加筆修正させて下さい
【24/03/14 00:50 加筆してます】
【24/03/16 地味に加筆修正してます】
【24/04/04 加筆と重複表現修正しました】




