イティプ・アプク【13】
それを見た途端、私は本気で後悔していた。
「じい、ちゃん……あれ、もしかして………?」
我慢しても声が微妙に揺れてしまう。
「やはり、お主にはアレが視えるんじゃな」
アリカント爺さんはしみじみと頷く。
って事は、本当は見えちゃ駄目なモノって事なんだね……。
ってか、悪霊がたむろってるなんて、聞いてないよーーーーーっ!!
「な、何で教えてくれなかったの……!?」
「見えなけりゃ大丈夫じゃなかろうかと思うたんでなぁ……やはり、わしが視えるお主には、視えっちまうんだべなぁ」
だべさーっ!!
私はムンクと○チョウ倶楽部が同時に脳内に降臨した気分を味わっていた。
人は本当に怖いと、無意識に笑ってしまうものらしい。
「案ずるでない、エルフの嬢ちゃん。あやつらが怨んでおるのはわしじゃからの。嬢ちゃん達に害はない……………筈じゃ。わしが囮になる故、その隙に手筈通りに魔鉱石を取り出せ」
そう言うとアリカント爺さんは、青とオレンジ色の冠羽を逆立て、普段は全く使わないであろう白と薄茶のまだらの模様の翼を広げると、その内羽根側から神々しいまでの乳白色をベースにした虹色の輝きが溢れ出す。
その姿は、まるでオパールの妖精の如く美しい。
アリカントの発する光の圧で一瞬、無数の顔が浮かぶ黒々とした闇の蟠りが怯んだような表情を浮かべたが、次の瞬間喜悦の表情に変わり、一気にこちらの方へ雪崩れ込むように襲い掛かってくる。
カネ……オンナ………カネ、おぱーる…………クレ、クレ!
そこでアリカント爺さんは踵を返して走り出した。
私達が捕まえようとしていた時よりは断然スピードは遅かったが、追いかけてくる怨霊達よりは確実に速く、アリカント爺さんは捕まりそうで捕まらない絶妙な距離感で逃げてゆく。
ところが、であった───
アリカントをそのまま追ってゆくかに見えた怨霊達が、私とサーシャに向って襲い掛かってくるではないか!
爺ちゃんの嘘つき………!
そう思いながらフリーズしていると、
「メグ!」
サーシャが咄嗟に私の体を抱え、その怨霊の群れを華麗に躱す。
はっ!?
ぼぉっとしてる場合じゃない!!
私は美女エルフから貰ったミッドナイトブルーのドルイドマントの懐から、預かっていたサンザシの杖を取り出し、教わっていたスタヴィルを唱える。
「畏怖のヘルム!」
魔法陣に似た印章がネオングリーンの光となって私とサーシャの前に現れる。
それがやがて盾のように変化したと同時に、眼前まで迫っていた怨霊の黒い群れの無数の顔が、恐怖の色を掃いて一気に霧散する。
おお、やった……!
私は目の前で起きた結果に驚きつつ、内心多少胸を撫で下ろしていた。
里和ちゃんが今回のオパールの魔鉱石用に作製したサンザシの杖で、彼女がアレンジしたルーンを施した印章 を使っているまだ未完成な杖なのだが、シンボルの魔鉱石がなくてもそれなりの魔力が発揮できるように作ったとの事で。
印章 に至っては本来、対人を想定したものなので、その人の内面にある恐怖を増大させながら具現化し、それを映し出す鏡のようなものらしいのだが─── 一か八かで人だった相手にも使ってみたら、存外効果がある事が判明した。
しかしまた怨霊たちは、元々いた強力な魔鉱石のオパールが埋まっていると思しき場所に徐々に集まってゆき、再び恨みがましげに呪詛の言葉を口々に吐きだした。
そこで私は違和感を覚える。
あれ……?
何かおかしい、ぞ?
何か肝心な事を忘れている気が───
「メグ、また来るぞ!」
そんな考えを打ち消すように、サーシャがまた私を現実に引き戻す。
あぁ、そうだ、それどころじゃ───!
再び怨霊たちは魔鉱石から力を得ているのか、じわじわとその容積を増してゆくようだった。
ヤバい、あの魔法は怨霊には逆効果だったのかも……!?
いやいや、他に何が出来た?
え〜っ……と……………あー、もー、わけわからん───!!
混乱しまくり到頭アタマが爆発する。
もう、とにかく、やるしかない!
「光、太陽、慈愛、輪廻、浄化!!」
里和ちゃんに丸暗記させられた言葉を半ば自棄っぱちで羅列詠唱し、サンザシの杖をさっきよりも大きくなりつつある黒靄集団化した怨霊に向けて振り下ろした。
杖の先から自分でも驚くほどの光量を有した輝きが、カッと光の玉となって打ち出され、眩い黄金色の閃光と化して怨霊の塊に命中する。
そしてその光に溶け出すように黒い靄は飲み込まれ、無数の顔は少し表情を和らげ、口々に何事か呟きながらゆっくりと霧散していった。
やがて私が放った光も消え、辺りには静けさと安全ランプの頼りない明かりが坑道内をぼんやりと照らすばかりだった。
また続いてしまうので、睡魔に勝てない私をお赦し下さい……後ほど続き書かせて頂きとう存じます
【24/03/02 18:17 加筆修正してます】
【24/03/03 02:07am 加筆してます】
やっと新しい章に入れそうです
【24/03/03 09:15am 結局加筆修正しました】




