イティプ・アプク【12】
アリカント爺さんに先導され、奇っ怪なルートで上に下に左に右にと縦横無尽に移動させられ、イティプ・アプク魔鉱山の最深部に辿り着いた。
迷宮と呼んでも差し支えないほどの、アリカント爺さんがいなければ私には戻るルートすら判らない怖い状況だ。
正直、この時点でここへ来ると言った事をちょっと後悔していた。
この奥の袋小路に、魔鉱石化した純度の高い強力なオパールの地脈があるという。
最下層は五叉路かと思いきや、まだその下があったとは───
今まで見てきた整備された他の坑道とは明らかに違い、ゴツゴツとした岩肌が剥き出しの恐ろしく真っ暗な場所で、里和ちゃんから空気が薄い可能性を考慮し渡された、魔鉱石の蛍石製の安全ランプがなければ全く何も見えないという始末だ。
時々アリカント爺さんの翼裏のオパール色の輝きが明滅してはいたが、その存在を私が確認できるだけで、照明的には一瞬過ぎてあっても無くても困らない程度でしかない。
翼をずっと開いていれば相当明るいらしいのだが、そんな老体に鞭打つような真似はさせられなかった。
とはいえ地味に閉所恐怖症気味の私は、茶髪の青年化したサーシャのジャケットの裾をがっちりと握り、時折足元の岩石に躓きながら、思った以上のサーシャの懇切丁寧なサポートでどうにか辿り着かせてもらった感が強かった。
しかし、そんな里和ちゃんが欲しがるほどの強力な魔鉱石のオパール───
道中、結構な距離だったので、アリカント爺さんから今回の件で疑問に思った事など色々と話を聞いた。
「何で爺ちゃんはそんな良さげな魔鉱石、食べなかったの?」
と、素朴な疑問をぶつけてみる。
「そりゃ簡単な話よ。強すぎてわしの老体にゃ過分な魔力だったからじゃ。強すぎる酒が人間の体に毒になるのと同じ理屈だべ」
私はふーん、と相槌を打つが、お酒を飲まなかった私にはイマイチぴんと来ない話でもあった。
美女エルフの話だと、その強大な魔力に惹き寄せられ、この魔鉱山自体がババイなど魔物たちの巨大な営巣地と化してしまった、と。
更にその相乗効果で、魔溜まりであるイス・ブラッカーが短期間で新たな魔鉱石を生むという循環が出来ていたらしく。
そう言う意味でアリカントとババイは奇妙な共生関係にあったはずなのだ。
「要するに爺ちゃんは強力な魔鉱石をエサに、自分が食べるのに丁度いい魔鉱石を作るため、敢えて何もせずに放置してたってこと?」
「ほー……お主意外と判っとるな」
家庭菜園じゃないんだから……。
私は溜め息をついて軽く頭を振る。
アリカント爺ちゃんの話だと、初めにこの魔鉱山を根城に決めた頃は、普通に坑夫が闊歩するその辺にごろごろあるような他愛ない鉱山だったらしい。
なので、自分が視える鉱夫に見つかった時は常に欲深い 輩に追い掛けられる破目になり、生き延びるためだけに必死で逃げ回り、沢山の人々を坑道内にあったクラックや崖から落としてしまった、と。
その結果、鉱山内に死霊まで蔓延りだし、その中の悪霊に呼び込まれるようにしてババイなどの魔物がどんどん増えていったらしい。
悪霊か……嫌だな。
自分的に想定外の話を聞かされ、思わず身震いする。
「じゃあ、その強大な魔鉱石が魔物を呼び込んだ訳じゃなく、人間の悪霊が原因でその魔鉱石が出来てしまったってこと?」
「今となっては玉子が先か鶏が先か、と言うぐらいの話だべな」
うーん、それって……。
「その強烈な魔鉱石の影響で、わしは長い年月をかけ少しづつ自我が目覚め、つい最近になって人化の能力を持ったんじゃが………今となってはわしには全く無意味な能力よ。何せ人化するとわしの姿が人間に見えっちまうんじゃからな。お陰で年甲斐もなく、ここらで見ない若くてめんこい嬢ちゃん達にわしの目が眩んじまってな、とうとうお主らに捕まっちまったという訳じゃ」
「ははははは」
私は思わず能面のような表情になって乾いた笑いを漏らす。
で、アリカント爺ちゃんのお好みが女体化したサーシャだった、と。
皮肉(?)なものである。
それより気に掛かる事がひとつ───
進んでゆく先の気配が、変にドス黒く禍々しさがばかりが濃くなってきた事だ。
これは……重さとか、種類は違うけど、あの時に似てる───
近づく毎に肌が粟立つ。
「着いたぞ」
アリカント爺さんの声でその場所を見ると、黒々とした靄の中、無数の鉱山夫だったであろう青白い顔がこちらを向いていた。
毎度ですが、誤字等直してます
何とぞ良しなに
【’24/03/01 加筆修正してます】




