イティプ・アプク【2】
───え。
カイル氏の代わり!?
「じゃ、ライカ、留守番頼むね」
「承知しました」
「じゃ、いつも通りよろしく。香月達はこっち来て」
なぜか体半分状態の美女エルフは愛弟子にそう依頼すると、私と茶髪の青年を呼び寄せる。
「いや、サーシャは───ドラゴンは戦力になるだろうけども………私なんか必要なくない?」
私が首を捻りながら取り敢えず里和ちゃんの傍へ近寄ると、問答無用でサーシャと戸惑う私の手を掴んできた。
「なーに言ってんの。君はこの子の召喚術師かつ調教師なんだから、一緒にいなきゃ駄目に決まってるでしょ! とにかく、あたしもこうしてられないから、もう行くよ」
嬋娟なエルフはそう宣言すると、そのまま私達を彼女のいる方へ引っ張った。
すると里和ちゃんの上半身が空間に沈み込むように呑まれてゆき、私達の身体も同じようにその中に沈められてゆく。
うぇ……!?
何か微妙に生温かいような、奇怪な感触が沈められた箇所から伝わってくる。
私は謎の魔法空間に完全に呑み込まれる前に、焦って魔導師見習いの美少女に声を掛けた。
「あ、ライカちゃん、カイル氏のこと頼むね」
「心配しないで下さい。カイルさん、こう見えてもかなり頑丈に出来てますので───とにかくお気をつけて!」
うん、カイル氏が鬼のように頑健なのはサーシャとの一件で判ってるけど……。
その紫紺色の魔導服姿の少女の可憐な笑顔に癒やされつつ、辛うじてその彼女の言葉を耳にしながら、私とサーシャは里和ちゃんのいた謎魔法空間に全身を沈められてしまった。
ぐにゃりとした柔らかいゲル状の物質に全身が浸されたような気がし、一瞬の息苦しさと閉塞感に底知れぬ恐怖を覚えた。
その異空間での時間は一刹那のようであり、永劫のようでもあった。
しかし美女エルフの掌の温かさだけが、この時の私の心の灯台のように厳然と私をその先へと導いてくれている。
大丈夫、すぐ出られる───
間断なく襲い来る恐怖感を押し殺しつつ、再びどこかの空間に出た感覚が、里和ちゃんが引っ張る自分の手の皮膚から伝わってきた。
顔が出ると同時に目を開けると、そこはひんやりとした涼しい空気が満ちる、地下の空洞に私達は出現する事と相成った。
土臭いような埃っぽい匂いが漂う空間の所々に安全ランプが置かれており、粗く削られた坑道内の壁を白っぽく照らし出している。
気づくと、なぜか里和ちゃんの姿が忽然と消えていた。
え、里和ちゃん?
途端に私は不安に駆られ、我知らずその艶麗な姿を薄暗い洞穴に探し始める。
まさか、魔物に惑わされた訳じゃないよ、ね……?
一瞬そんな馬鹿げた考えがよぎる。
まあ、この場合、里和ちゃんの悪戯と思った方がいいような気もするが───
第一、結局サーシャと里和ちゃん、ヴィンセントさんの関係やサーシャとの顛末を追求する前に、ほぼ誤魔化すのが目的なんじゃないかと思うほど、別な案件に巻き込まれてゆく。
それどころか、サーシャに関しては間違いなく美女エルフが仕組んだガリトラップに違いない。
いや、きっとそうだ。
私が静かに沸々とした怒りを募らせていると、何故かそれまで黙って右奥の坑道を眺めていたサーシャが、私の腕を引いて薄めの唇に人差し指を当てた。
ん?
すると、その方向から重い衝突音と地響きが伝わってきた。
里和ちゃん達はあっちか?
その音を聞いて私が右奥の坑道へ行こうとしたが、私の左腕を掴んだまま茶髪の青年が首を横に振る。
え、何で?
私が口を開こうとすると、今度は私の口許を数本の指先で塞いできた。
………何だ、その気障な仕草は。
事態が事態なので他意はないだろうと思い、取り敢えず気にしない方向で。
そして私の耳元に顔を寄せ、小声でこう告げてくる。
「どうも様子が───気配が、おかしいよ。あの里和達が苦戦してるんだ。それがここにボクらだけ置いていった理由だと思う」
そういや、そんな事言ってたっけ……。
「でも、助けなきゃいけないんでしょ? 見なきゃ状況も判らないし」
「うん、そうなんだけど、無闇に出ていっても多分今のボクらじゃ勝てないと思う」
「───今の?」
「こんな狭い場所じゃ元の姿には戻れないし、メグっちの魔力自体まだまだ不安定だからね」
あっ、そっかー。
だったら何で連れてこられたんだって話になるんだけど。
そんなコソコソ話をしていた矢先、何度も轟音が鳴り響く右側の坑道からおかしな生き物が姿を現した。
文字ばかり追っかけてる昨今、ゲシュタルト崩壊を起こしている私です
【’24/02/14 01:06am 加筆修正しました】
【’24/02/15 12:17 加筆しました】
【'25/01/07 誤字修正改行調整しました】




