イティプ・アプク【1】
「おっさんみたいなこと言うのやめてよ……」
私は一気にどっと疲れが出たような気がした。
と、言うより、里和ちゃんの顔を見て正直ほっとした感じもある。
「あはは、ごめんごめん───っていうか、何の騒ぎ、コレ?」
そう言いながら何もなかったはずのリビングの空間から、上半身だけが出ている不気味な状態の美女エルフだったが、ライカちゃんが地味に憤慨した様子で彼女の許へ駆け寄った。
「師匠、遅かったじゃないですか!」
「遅かった? まだ1日は経ってないと思うんだけど……そこ、退かすの手伝おうか?」
私は里和ちゃんの言葉にぶんぶんと頭を上下に振った。
どうも倒れた時に、真面目なカイル氏はまた私を庇ってくれたらしく、その時に受け身をとり損ねて頭を強か打ちつけた鈍くて重い音を私は耳元で聞いていた。
恐らくこの脱力してる状態だと、黒髪の青年は気を失っているのだろう。
脱力した人はとにかく激重だ。
って、里和ちゃん何日地下に潜るつもりだったんだ?
「カイルさんってば、私の魔法だともうかなり抵抗して無理矢理解除しちゃうんみたいなんですよね。さっき真夜さんにも魔法で解除されちゃうし……魔導師として自信なくしそうてす───まだ見習いですけど」
「何言ってんの。この二人は桁外れの魔力保持者なんだから、人間のあなたがまともにやりあえる相手じゃないの! 比べる方が間違えなのよ?」
ちょっとちょっと、人を化け物みたいに………それじゃ里和ちゃんなんか私達以上の怪物って事になるけど。
珍しく憤懣やる方なしといった風情のライカちゃんをそう笑いながら往なしつつ、美女エルフは右手にぱっと魔杖を顕現させる。
神秘的な輝きを放つ大きな水晶の原石のついた柄頭をこちらに向け、そのまますっと上に動かした。
その彼女の魔杖の動きと同時に、私に覆い被さっていた黒髪の青年の背高い痩身が軽々と浮かび上がる。
一気に体が軽くなりほっとしたのも束の間、私の体まで一緒に浮かびだした───と言うより、私の背に回されてたカイル氏の両腕が解けず、そのまま彼と共に吊り上げられてしまった格好だ。
なんつー職務に忠実な男なんだ、この人は。
足が床についたところで、私は黒髪の青年の両腕の戒めからしゃがんで抜け出した。
「あらあら、また随分と仲良くなったみたいだね」
里和ちゃんは脱力したカイル氏を長椅子に下ろしながら、またその花貌に似合わぬニヤニヤ笑いを貼りつけて、当てつけがましく私にそう言ってきた。
もうその手には乗らん。
私は華麗にスルーする事にした。
「ねぇ、煩くて眠れないんだけど───って、あれ?」
このタイミングでサーシャ登場とか、もうぶっちゃけ収拾つかないんですけど!
カイル氏の打ちつけた頭の容態も心配なのに、何気にパニック状態になって私は頭を抱えたくなる。
そこで美女エルフは喜々とした声を上げた。
「あ〜! 香月、ちゃんとこのドラゴンを懐柔できたんだね」
…………何ですと?
このタイミングでその爆弾発言はやめてほしかった。
「誰かと思えば、里和ママだったのかぁ。何十年振り?」
茶髪の青年は両手を広げて駆けてきて、未だ上体のみの美女エルフに抱きついた。
何だ、この感動の再会めいたシチュエーション。
里和ちゃん、体半分しかないけど。
つか、何で体半分なんだ……?
さり気に怖い考えになりそうだったので、それ以上想像するのをやめる私であった。
そしてそのまま、里和ちゃん達の横で大きな瞳を更に大きくして硬直していたライカちゃんを促し、ソファーに横たわっている黒髪の青年の様子を見る事にする。
この反応だとライカちゃんも知らなかったんだな。
「君が18歳になった辺りで別れてから、かれこれ90年ぐらいにはなるのかな?───って、ママ呼ばわりはやめてよ」
「だって僕にとっては育ての親みたいなものだし。ヴィンパパは?」
え、今何と?
私が屈んでカイル氏の烏の濡れ羽色の頭を両手で探っていると、更なるとんでもない話が私の後頭部にぶち当たってきた。
魔導師見習いの美少女に至っては、もうとっくに目が点になっている。
どう言う話なんだ!?
「この先にいるよ───だから、誤解を生むからその呼び方やめてね。このイティプ・アプクの魔鉱山、なかなか魔物が凶悪でね、討伐するのにも一苦労でね〜。だからカイルにも加勢して欲しかったんだけど………その様子だと無理そうだね」
里和ちゃんは珍しくその艶やかな桜色の唇から深い溜め息をついた。
うん、多分、無理かも。
頭の中におっきなコブ出来てるし、それ以外にも───
「そんじゃ、連帯責任で、香月と君が魔鉱山に来てくれる?」
睡魔に勝てません……また地味に後ほど続き書かせてもらいます
何とぞよしなに
【’24/02/12 12:16 かなり加筆修正してます】
【’24/10/28 微修正しました】
【'25/01/07 誤字修正改行調整しました】




