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アイラーツァ【10】


「………真夜(マヨ)さん、どうやらマーガレット様は上級系の魔法も学んでらしたみたいですね」


魔導師見習いの美少女は、その黄水晶(シトリン)のような大きく煌々(こうこう)とした瞳を見開き、感嘆した様子でそう言った。


どうも治療回復だけじゃなく、ライカちゃんがかけた魔法まで解除してしまってるっぽい。

何せカイル氏が当たり前のように体を動かし、キャバルリーシャツ風デザインの黒い綿シャツのガントレットカフスの(そで)から出てる両手をしげしげと(なが)めていた。


「だな。お陰で体の方はすっかり───ん?」


そこで彼は何事か違和感を覚えたのか、(おもむ)ろに右のカフスボタンを外し、(ひじ)までたくし上げる。


黒髪の青年のつるりとした張りのある若々しい肌質の腕が露出したが、それを見て私達は皆息を()んだ。


「あれ……? 古傷の(あと)は?」

「もしかして、消えてます?」


その私達の声に、カイル氏は左腕のカフスも外して腕をたくし上げると───なぜかそちらには古傷跡が残っていた。


「「「……………」」」


一気に場の空気は静まり返る。


うぬぬ………ここはエルフらしく可愛くテヘペロする場面か?


しかしそうは問屋が(おろ)さなかった。


黒髪の青年は少々慌てた様子で、今度はシャツの前ボタンをいくつか外し、自分の胸元を確認しだした。


「………おい、お前ら、どうしてくれる?」


(はだ)けたシャツの胸元を見ると、なぜか右半分だけ綺麗に古傷跡が消え、左半分には残っているという不思議現象が───


うっわー………そうなったか。


我ながら器用な魔法のかけ方をしたものだ、と思うが、まぁ、逆だろうね、この場合……。

不幸中の幸いな事に、洋服から出ている部分の傷跡が消えてくれていたぐらいで。


「じ、じゃ、もう1回やってみようか? 今度は綺麗さっぱり古傷の跡が消える……………かも?」


微妙な怒りに震えるカイル氏に、私はできるだけ頑張ってにっこりと笑顔を作り、ついでに首を(かし)げながら最後の抵抗を試みる。


すると黒髪の青年は顔を真っ赤にして叫んだ。


阿呆(アホ)かっ、(まか)せられるか!」


で、ですよね〜!


私が彼の剣幕(けんまく)(おび)えていると、ライカちゃんがおろおろしながら間に割って入ってくれた。


「す、すみません、カイルさん! これは私の責任です。多分、師匠ならどうにかしてくれると───」

「絶っ……対、(イヤ)だ!!」


ところが食い気味でその言葉を(さえぎ)る黒髪の青年。


里和(あいつ)はこう言う奇っ怪な魔法、大好きなド変態エルフだからな。逆に面白がって俺やイアンに使おうとしてくるに決まってる」


………うん、否定できない。

今の里和ちゃんであれば、恐らくこの魔法を更に鬼アレンジしてかけようとしてくるだろうな。


紫紺(しこん)色の魔導服姿の少女も、変に複雑そうな笑顔になってしまっていた。

多分、自分の師匠の数々の所業を思い返しているに違いない。


流石にこうなると、ただ恩を(あだ)で返してる状態にしかなってない。

こんなつもりじゃなかったんだけど。


「ホント、ごめんなさい………まさかこんな事になるとは」


私は自分の愚かさにまた少し嫌気がさしていた。

めちゃめちゃお世話になってるし、助けられまくってたし、少しでも恩返しになればなぁ、と思うのがそもそもおこがましかったのかも知れない。


最近はカイル氏とは、少しは打ち()けてきたんじゃないかな、と思ってた矢先だったのにな……。


私が自分のした事にげんなりして落ち込んでいると、珍しく焦った様子で黒髪の青年は口を開いた。


「……別に、なってしまったものはしょうがない。その代わり、あんたが責任持ってこのおかしな状態、(なお)してくれよ?」


え、それって───


今度はライカちゃんが珍しくキュートであやしい笑顔を見せたかと思うと、すかさずこう口を(はさ)んできた。


「それでは、今後の真夜さんと私の向学のためにも、その(からだ)がどうなってしまったのか、拝見させて頂きますよ?」

「なっ……⁉」

停止(イス)!」


再びライカちゃんに立ったまま硬直状態にさせられたカイル氏の体を、驚きを隠せないままで私が倒れないように受け止めようとするが、黒髪の青年と体格差のある私が受け止めきれる訳もなく───


倒れ込んだ私達に魔導師見習いの美少女の浮遊魔法も間に合わず、リビングに阿鼻叫喚(あびきょうかん)(こだま)する。


そんなドタバタの最中(さなか)、倒れていた私の頭上の空間が(ゆが)み、そこから激しく見覚えのある銀髪(プラチナシルバー)の美女がひょっこり顔を出した。


「お楽しみのところ、失礼」


私の上にカイル氏が(うつぶ)せで倒れ込んでいる状態を見て、からかうように里和ちゃんはそう笑うのだった。


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