アイラーツァ【9】
そこでサーシャを寝室に運んでくれた黒髪の青年がリビングに戻って来た。
あれから何事もなかったかのように入浴し、こざっぱりしたカイル氏は黙って立っているだけで女性達が熱い視線を送ってきそうな雰囲気を醸し出している。
ただ、相変わらず目つきが……仕事柄なのか彼のクセなのかそう言う顔なのか、いつも通り鋭い。
「何だ? 」
私の顔を見るなりカイル氏が不可解な表情になった。
再度左横のソファーに座りながら更に一言つけ加えてくる。
「……そんな大口開けてると虫が入ってくるぞ」
はっとして私は口を押さえる。
そうだ、この人はこう言うデリカシーの無い人だった……。
そこで黒髪の青年の日に焼けて浅黒い端正な顔に、今回のサーシャとの戦闘でできた無数の細かい擦り傷生傷を見て、つい先刻のバスルームでの騒動を思い出した。
地味にカイル氏、全身に打撲とか切り傷だらけだったんだよね。
「ねえ、ライカちゃん。ヒーリング………回復魔法って難しいの?」
「回復治療系は割と初歩的な感じではありますよ。やはり人によって得意不得意はありますが、見習いの魔法使いや魔導師なんかが魔力鍛錬の腕試しに使われてる事も多いです。攻撃系と違って少なくとも怪我はしにくいので」
「じゃあ、今、私が使えるかな?」
その私の言葉でピンときたのか、紫紺色の魔導服の少女は徐ろに、センターテーブルを挟んだ向かいに座っていた黒髪の青年に視線を移す。
生あくびをしていたカイル氏は、私達の視線に気づきギクリとする。
そしてゆっくりと私達から視線を逸らした。
大口を開けていると虫が入りますぞ、カイルさん。
「じゃ、タイミング良くこちらに怪我人もいらっしゃる事ですし、試しにやってみましょう」
「いや、俺に治療は───」
「はいはい。放っときゃ治るんですね、わかります」
そう言いながら私とライカちゃんは示し合わせたようにほぼ同時に立ち上がり、それを見た黒髪の青年も焦って立ち上がろうとしたのだが、すかさず魔導師見習いの美少女が魔杖を彼に向け唱える。
「束縛!」
途端にカイル氏は体を硬直させ、そのまま再びソファーへ沈み込む。
「お、まえら……!」
苦しげに言葉を絞り出す黒髪の青年に、ライカちゃんは感心したように口を開いた。
「普通は苦痛で喋る事すら出来ないはずなんですが、流石カイルさんですね」
え、今のそんなどぎつい魔法なの?
逆に申し訳ない事しちゃったかな、と思いつつ、早速ライカ先生の魔法の講義が始まるのであった。
「じゃ、真夜さん、始めましょうか!」
ライカちゃんは私を黒髪の青年が座るソファーの背後に立たせ、両手を彼の首元辺りに翳させる。
その私の可愛らしい先生たる少女は、私の背中に右手を当ててきた。
「では、私が誘導しますので、静かに呼吸を整えて下さい。そして足元から魔力───エネルギーを自分の体に引き上げ、巡らせるイメージで、魔力を───気を練ります」
そのキュートなアニメ声に従い、取り敢えずイメージしやすいように目を閉じる。
うーん……魔力……気………
世界を巡るエネルギー………
温かな光………
世界樹の輝き───
その光の奔流………!
体中にじんわりと温かさが広がってゆく。
特にライカちゃんが触れている自分の背中が特にぽかぽかして温かい───熱さを感じるほどに。
「次はそのエネルギー───魔力を、身体の中心を通して腕に流し、両手に集めるようにイメージします」
流す……血液の流れに乗って、どんどん掌に集めて───
「そこで『フエアルイング』と、唱えて下さい」
と、ライカちゃんが教えてくれたのだが、実際私の口からするりと出た言葉は、
「ルイムルウンアル!」
そう唱えてしまっていた。
すると眩い光が私の翳した両手から湧き出すように広がり、黒髪の青年の体を包み込んでゆく。
そして───
【参考文献】
『ファンタジー初心者用語解説+AIイラスト図鑑』作者:滝川 海老郎さん
https://ncode.syosetu.com/n5709da/
非常に助かりました
ありがとうございます
それとまた追記すると思います
毎度何とぞ良しなに
【’24/02/09 23:58 後半かなり加筆してます】
【’24/02/12 09:30am 台詞加筆】




