アイラーツァ【5】
*続きを読んで下さっている方へ*
地味に前回に新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
( 読まなくてもつながるようにはなってると思うので )
そこには幾つかのオイルランプと思しき明りに薄く浮かび上がる、石造りで比較的大きめの宿屋が鎮座していた。
エシラは場所がら木造家屋はほぼ皆無で、骨組みや何がしかの柱に使われているぐらいで、それ以外は近場の石切り場から運ばれた岩石や、鉱山から出た残石残土で作られた簡易なコンクリートか日干しレンガ造りの建物ばかりだ。
その中でもかなり立派で清潔そうな宿屋で、正直内心ほっとしていた。
里和ちゃんセレクトなのであれば当然だろうし、曲がりなりにも王族のヴィンセントさんも一緒なのだから、そんな粗末な宿には寝泊まりさせられないのだろう。
中もエントランスから結構高級感を漂わせる造りになっていて、フロントも5、6人横に並んでも大丈夫そうな大きさになっていた。
木製の椅子が数脚壁沿いに並び、中央にはテーブルにソファーセットまで置いてある。
宿泊客なのか十数人の身なりの良い人達が思い思いに寛いでいた。
そしてそのソファーセットが置いてある壁の上には、謎の動物の白茶けた大きな首だけの剥製が飾ってあった。
大きく立派な一対の角らしきものが頭から生え、顔には極端に小さな両眼にロバのような大きめの耳、その耳元まで裂けた口には上下に太い牙のある、牛のような馬のような見た事のない奇怪な容貌をしていた。
な、何じゃこりゃ?
私がぽかんとしてそれを見上げていると、フロントで私達の宿泊手続きを終えたライカちゃんとカイル氏が戻ってきた。
ライカちゃんは宿屋に入る直前に本来の姿に戻っている。
「ああ、この剥製ですか? 師匠が倒した『天空の雄鹿』と呼ばれていた地下生物の群れの首領なんです」
地下生物……地下怪物の間違いなんじゃ……?
つか、里和ちゃんが倒したとか、まさか一人でって事はないよね。
詳しく聞くと、里和ちゃんがこちらに戻ってきたばかりの頃に、自分の魔杖を作製するのに魔鉱石が必要だったとの事で、ミズガルズで一番産出量があると言われていたアイラーツァ大陸のエシラに来たのだという。
ところがその頃のエシラの鉱山では、『天空の雄鹿』と呼ばれる本来は東の大陸にあるアニチャと言う大国にいるはずの地下生物が、なぜか群れで住みついてしまっており、鉱夫達を無理難題で唆しては理不尽に暴れ、結果的に殺戮するという訳の判らない事を繰り返していたらしい。
ただ地上の光に憧れ続け、陽光の元に出ることを夢見ていただけの生き物だったらしいのだが、地上の大気に触れると溶けて死に至る疫病になってしまうという、悲しくも恐ろしい伝説のある生き物で───結果的に妖魔化していた証なのだが、要するに当時のエシラの町長が魔法使いリワ御一行に泣きついたという話で。
なので、その頃には既に同行していたヴィンセントさんやその配下のカイル氏、竜騎士のイアンさん、里和ちゃんの従者の蘭丸さん達も一緒に戦ったとの事。
ただ、この一際大きな『天空の雄鹿』は首領だけあってなぜか地上に誘き出しても液化せず、最後まで里和ちゃん達を苦しめたらしい。
そして魔法でトドメを刺したのが里和ちゃんだった、と。
「んで、里和ちゃんの破天荒な武勇伝がここから始まりました、みたいな」
私が呆れた口調でそう言うと、ライカちゃんは苦笑しながらその通りです、と同意してくれた。
黒髪の青年は興味なさそうに私達の後ろで生あくびをしている。
しかしそこで魔導師見習いの少女ははたとする。
「そう言えば、サーシャさん、でしたっけ? 姿が見えないようですが───あ!」
そう指摘されて私もはっとするが、そのライカちゃんの反応に彼女の視線の先を追って見てみれば───
サーシャがロビーにいた宿泊客らしき女性達に囲まれ、キャッキャウフフしているではないか!
全く、あの子は……。
そこで私は被害が拡大しないうちに心を鬼にして叫んだ。
「サーシャ! ハウス!!」
【参考文献】
『幻獣辞典』ホルヘ・ルイス・ボルヘス、マルガリータ・ゲレロ著、柳瀬尚紀訳
ロシア語翻訳はググるさんと
『コトバンク』さん https://kotobank.jp
【’24/02/03 21:58 少々追記しました】
【’24/02/12 13:35 訂正しました】
【’24/07/01 修正しました】
自分で考えた設定を忘れるポカ(死語の世界)
【'25/01/07 誤字修正改行調整しました】




