表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/215

ティル・ナ・ノーグ【2】


心の準備がないままに入ってきた相手に、思わずびくっとして反射的に身を起こそうとするが、途端(とたん)に全身に訳の判らない激痛が雷撃を受けたみたいに走った。


いっ……!?


悶絶したままその痛みに()えていると、背後から呆れたような声が降ってくる。


「まだ無理しちゃ駄目だよー。香月(かづき)病み上がりだし、無理矢理こっちに引っ張ってきちゃったからさー。この君の体、まだ()に慣れてないんだよ」


うえっ!?


その言葉に絶句したまま、(しか)めた顔で声の主に視線を移した。


だから、アンタ誰よ……?


そこには見覚えのある精美(せいび)な姿があった。


クリアな耀きを放つ紫水晶(アメシスト)双眸(そうぼう)が私を見下ろしている。

今回はその銀糸の輝きを有したロングヘアを逆三編みにして左肩口から垂らし、淡いピンクの組み(ひも)で軽く巻いたように結んであった。

その髪から(のぞ)く耳先はやはり尖っている。


(まご)うこと無きエルフだ。

以前見た時と同じ浮世離(うきよばな)れした美女。


ただその小柄な体には、丈が長めの白のパフスリーブのブラウスにウエストマークされた太めの革のベルト、ボトムはデニム生地に似た細身のスラックスを()いており、膝丈の革のレースアップらしきブーツが見える。


この娟雅(けんが)なエルフの彼女が誰なのか薄々気づいてはいたが、万が一って事もある訳で───


すると沈黙したままで仏頂面になっている私に気づいた相手が、思ったよりも困った様子で口を開いた。


「……もしかして、怒ってる?」

「……っつーか、今回は心読まないの? つか、貴方(アナタ)誰なんですか?」

「えっ……!? あ、ゴメン! そっか、判らないよね……里和(りわ)だよ。咲良田(さくらだ)里和! 久しぶり!」


……やっぱり。


何故か声はあんま変わらないんだな、と思っていると、自称・咲良田里和と名乗ったエルフは、人の()さそうな笑顔でにぱっと笑った。


私はどきりとした。

(まさ)しくその笑顔は里和ちゃんの面影のある笑い方だったからだ。


(ちな)みにあたし、心は読めないよ? あれは時空の狭間(はざま)───アストラル空間だったから……ちょっと特殊な状況なんだ」


顔は全然違うんだけどなぁ……。


そう思って深く溜息をついていると、自称・里和ちゃんのエルフは独り()ちるように言葉を続けてからその私の反応にキョトン顔になった。

そんな表情も鬼可愛いのだから、エルフってホント得だなとつくづく思う。


「あんま驚かないんだね?」

「残念ながら、私はまだ夢だと思ってる」

「えー!? 夢じゃないよ〜!」


阿呆(アホ)か、そんなんで誰が信じる?

これはまだ夢の続きを見てるんだ。

それじゃなきゃ、ただの白昼夢───早く目覚めろ、私!


定石(じょうせき)の目を(つぶ)って頬をつねってみる。


……普通に痛い。


目を開けてみる。

もしかすると目が覚めてるかも知れない。


不思議そうに覗く美人エルフが見える。


うぬぬぬぬぬ……。

まだ足りないか。


私が(うな)りながら矢庭(やにわ)に右手を振り上げた時だった。


「ちょっと! 何やってんの!!」


慌てた様子で里和ちゃんと思しきエルフはその私の手首を(つか)んだ。


「いや、起きなきゃなんで」

「イヤ、そんな事しても意味無いから!」

「……じゃあ、どうやって起きればいいの?」

「どうって、香月……やっぱあたしがした事怒ってるんでしょ?」

「……じゃ、億歩譲って、私に何してくれちゃった訳?」

「香月がいぢわるだぁ〜」


誰が意地悪だ。

意味判らん。


わざとらしく泣き真似をしてチラリと横目で私を見る相手に、思い切りウンザリした表情であからさまに嘆息(たんそく)する。


里和ちゃんってこんなヒトだったっけ?

(むし)ろ真逆だったはず……。


こうなると益々(ますます)違う気がしてくる。

混乱したまま脳みそが溶けて耳から流れ出てくる心境だ。

泣きたいのはこっちだよ。


「……じゃ、単刀直入に───まだ信じてる訳じゃないけど、何で私を殺したの?」


['23/12/01 加筆修正]

登場人物増えそうなので微調整しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ