アイラーツァ【1】
エシラ近郊に到着する頃には日もとっぷりと暮れ、数km離れた場所から真っ赤な夕焼けを背にしたエシラの町のシルエットが見える。
町の人達を驚かさないように───と、言うより、『黒いドラゴン』改めサーシャ・トゥガーリン・ズメエヴィチの正体がバレないように、だが───人が居ないかなり手前の小高い丘の陰に降りてもらった。
そこでサーシャには男性になってもらう事にした。
どうやらエシラは場所柄あまり治安がよろしくなく、女性二人に男性一人という組み合わせだと地元のチンピラ等に絡まれやすいらしい。
まあ、何処もそんな感じなんだな、とつくづく思う。
ただ、黒髪の青年がおっかない顔でガンガンに睨んでるから大丈夫そうな気はするんだけども。
アイラーツァ中央部はほぼ平らな荒野ばかりで、このでっかい竜の体を隠すには不向きな地形しかなく、黒ドラちゃんと降りられる場所が無いのには本当に閉口した。
お陰で結構な距離を歩かされる事と相成った訳だが。
とは言えエシラまでの道中、何でこんな場所をボロボロで傷だらけ埃まみれの青年と、身なりが金持ちそうなエルフ、軟派で軽薄そうな青年が一緒にいるのか、と言う設定を考える猶予にはなった。
まあ、専ら考えるのはこの辺の事情を知るカイル氏だけだったのだけれど。
「……取り敢えず、盗賊団に襲われたアシレマから来た豪商のエルフの娘とその従僕、俺は護衛って言うのが一番収まりがいいかもな」
アシレマと言うのはアイラーツァから西北方向にあるアシレマ大陸にある大国の名で、現在このミズガルズで一番栄えており、色んな意味でこの世界の実権を左右する存在らしいのだが───まあ、それは後々必然的に語らねばならない話だったり。
ところが、黒ドラちゃんたるアレクサンドル───女の子の場合は『アレクサンドラ』ちゃんになります。どちらも愛称は『サーシャ』───が何故かゴネだした。
「えー、ボク護衛がいい」
「あ?」
「従僕はカイルがやればいいじゃん」
「それだと盗賊団に襲われた体にならんだろ」
いや、それ以前に見た目が全く無理めなんですけどね。
今度は私が溜め息をついて助け船を出すことにした。
もう町は目と鼻の先なのに───
「サーシャは私の従魔なんだから、似たようなものでしょ?」
「全然違うよ! 従魔の方が護衛に意味が近いよ」
……なぜそこに拘る?
微妙な違和感を覚え、はっと気づいた私は慌てて口を開く。
「サーシャ、今何歳?」
「んー………多分そろそろ100歳、かな?」
わっか!
と、言うようになったら、私ももう後戻りの出来ないニウ・ヘイマールの住人と化してきている自分を鬼自覚するのであった。
つまり、この黒い火竜は小学校高学年の児童ぐらいの精神年齢って事か。
さて、どうやって丸め込もう───もとい、説得しようか。
【24/07/01 誤字修正しました】




