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ティル・ナ・ノーグ【1】


頭が、ガンガンする。


深い眠りから覚めたような気がしていた。

そして、誰かに呼ばれたような……。


目蓋(まぶた)がやけに重い。

それどころか体も重い。

体中に鉛でも流し込まれているかのように動かない。


呼ばれた?

誰に?

ここは……何処(どこ)だ?

確か手術して───病院、だったっけ?


軽く混乱しているのが判った。


いや、違う。

もうとっくに退院してて、病理組織検査で結果待ち……経過が悪くなければ半年後に再建手術だ。

だったら、ここは───?


どこか懐かしいような(にお)いがする。


建て()える前の伯母(おば)の家のような、古びた木造家屋(かおく)な感じ。


(まき)ストーブの(すす)けた匂いや、ハンターだった伯父(おじ)()ってきたエゾシカやヒグマの獣臭(けものしゅう)なんかもその(かげ)に染みついてしまっていたが、決してそれが嫌いではなかった。


───いやしかし、やはり違う。


そこに妙な(カビ)臭さが混じった匂い。

()いだことのないような、不思議な───乾燥したハーブやスパイスにも似た香りもする。


うーん……?


何だかほんわか温かい。

陽だまりの干し草に包まれてるような匂い。


そこでようやく、体の感覚が戻ってきた感じがしていた。

胸の(しん)の辺りからぽかぽかしてくるのが判る。

硬直していた四肢(しし)(とどこお)っていた血液が(めぐ)り始めている。


まだまだ重い感じはするが、やけに光が透けて見えるようになった目蓋(まぶた)をゆっくりと開けてみる。


……え〜?

どこなんですか、ここは!?


そこには見知らぬ空間があった。


そう、まるっきり私にとってはファンタジーと呼べるほど、メルヘンチックな室内がそこにはあった。


ま、本当(マジ)ですか、これは?


ハリウッド映画のワンシーンのような、欧風(おうふう)の───いや、古代のケルト民族の石造りの家に似ている気がした。


少々荒削(あらけず)りながらきちんと組まれた暖炉には、熾火(おきび)になりかけた(まき)()べられており、その上に大釜(コルドロン)が掛けられ湯気を上げている。


部屋の中央付近には(いびつ)だが古びたテーブルと思しき木製の台。


その周囲に丸太で作られた、適当に切ったかのように大きさも高さもまちまちな、スツールらしきモノが数個置いてある。


そしてそのどちらにも、何故(なぜ)か青々とした葉が小さな枝についていた。

普通、切られた木に青葉など生えないはずなのだが……。


内心首を(かしげ)げながらゆっくりと視線を巡らすと、やはり似たようなテイストのシェルフやチェストなどの家具が並んでいる。


そこには見た事もないような木や(つる)、葉や草などで作られた生活雑貨と思われる調度品(ちょうどひん)が、それら家具の上に乗せられていた。

中には何に使うのか全く見当もつかない物も多数あった。


いやいやいや、オイオイオイ……。


私は()(いき)をついて視線を天井に移した。


暖炉の(すす)で黒く(いぶ)されたそこは、丸太や(わら)などで組まれた屋根材が露出(ろしゅつ)していた。


当然のように、そこにも青い葉がちらほら生えているのが見える。


とってもメルヒェン───


思わずそう言いたくもなる。


改めて室内を照らす明かりの方に目線を移動させると、そこには石壁に開けられた余り大きくない窓が二つほどあり、やはり木製の観音(かんのん)開きの扉が(しつら)えられていた。


柔らかな光が射し込むその窓の扉は外に向かって開け放たれており、無論(むろん)窓ガラスなど()めてあろうはずもない。


時折(ときおり)入ってくる草いきれの混じった微風は、同じように反対側に開いている窓から抜けていっていた。


うん、やっぱそうだよね。


一人でそう得心(とくしん)すると、今度は自分の状態を確かめる。


白い綿で出来ているであろう清潔そうな寝具に自分は寝かされていた。


敷布の下はふかふかのベッドっぽく見えるが、さっきからしていた匂いで間違いなく家畜用の干し草が()かれているだろう事は察しがついている。


うん、ハ○ジだ、ハ○ジの世界。

一度寝てみたかったんだよね。


人心地(ひとごこち)ついてくると呑気(のんき)な感想も出る。


今度は体を動かしてみた。


右腕……動く。

左腕、動く。

グーパーグーパー……異常無し。

───って、おや?


そこで眼の前の自分の両手に違和感を覚える。


何だかやけに白い気がする……。


元々白い方だと言う自覚はあったが、それは()くまでアジア系人種の中では、であって、こんなに肌目(きめ)細かく透けるような白さでは───


自分の目の前にあるシミひとつない細い繊手(せんしゅ)愕然(がくぜん)とする。


こっ……コレは!?


「私の手じゃない!」


思わずそう叫ぶと、後ろの方で何かが開く物音と共に聞き覚えのあるちょっと甲高(かんだか)い声が飛んでくる。


「あー、やっと起きたか」


【'24/01/01 02:27 地味に修正】

【'24/09/12 少々修正しました】

【'25/01/07 誤字など修正】

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