ミズガルズ【3】
斜め上の事実に私の目は点になる。
「………え?」
「ショックか?」
「って言うか、『ダークエルフ』と『ハイエルフ』って何ですか?」
「……………そうきたか」
黒髪の青年は、表情が乏しい彼にしては珍しく大仰に溜め息をついた。
「そう言うあんたも───いや、ヴィンセントからその辺の事、聞いてないのか?」
「全然、全く、すっぱり」
聞くも何も、この世界で目が覚めてからそんな暇、私にありましたか?
いや、百歩譲ってあったとしても、里和ちゃんもヴィンセントさんも忙しい忙しいの一点張りで───実際そうだったのかも知れないけど───色々訊こうとするとさらりと躱されてばかりで、出そうで出ないくしゃみ状態をずっと味わわされていたのだ。
無論、魔導師見習いのライカちゃんや里和ちゃんの従者の蘭丸さん、緋色の髪の竜騎士イアンさんに訊いても知らないか、魔法使いの美女エルフに訊いてくれとしか返事は来なかった。
こうなるとお手上げと言うか、流石に諦めの境地に至るしかない。
「………あいつらもしや、面倒事を俺に押しつけようと───あ、いや、あんたが面倒臭いと言ってる訳じゃなく、今のこの世界の現状が複雑に絡まり過ぎてて、だな───」
……誰もこの世界の情勢なんか訊いてないんですが。
私が目を眇めてカイル氏を黙って見ていると、また珍しく変に焦った様子で話題を変え、私からわざとらしく視線を逸した。
「とっ、とりあえず、日陰に行こうか。まだまだ暑くなるからな、中央アイラーツァは」
そしてさっと踵を返すと、それ以上追求してくれるなと言わんばかりに手近な木に向かってスタスタと歩き出す。
そうか、私は面倒臭いと思われていたのか。
そうかそうか埼玉名物草加煎餅。
ふっふっふ……今に見てろよ。
私がそう不穏な空気感を醸し出していると、流石に不気味そうに私の表情を窺い見ながら、黒髪の青年は自身の正体以上のとんでもない事実を披露してくれた。
「それにリワ達が迎えに来るとは言ってたが、はっきりした日時と場所は指示されてないし……リワの魔法は凄いんだが毎度大雑把で困る」
里和ちゃんを的に矢を射る妄想をしていたところで、私は現実に引き戻される。
───は!?
嘘でしょ……。
同じ場所に降りたんじゃないの!?
つか、そんなんで合流できるんだろか?
カイル氏のスパイよろしく全身黒装束のすらりと背高い後ろ姿を、私は腑に落ちない面持ちで眺めながらトボトボとついて行く。
陽光がかんかんに照りつける元いた場所から少し移動し、荒野と砂漠ばかりだと言うアイラーツァ大陸のサバンナ特有の真昼の鬼暑い陽射しを避けるため、私達は手頃な大きさの木陰の下に逃げ込んだ。
あのまま元の場所にいたら、漏れなく二体のエルフの干物が出来上がっていただろう。
私は暑さと移動で少し汗ばみながら、多少は涼しい木陰に到着してほっとしていると、隣りに佇む黒づくめの青年に視線を移す。
時折サバンナを渡る乾いた風が、その烏の濡羽色の髪をなぶり、木漏れ日からプリズムのような光を受けながら乱れなびく。
そのミディアムヘアの隙間から、私が違和感として気づいた少し尖った耳がちらりちらりと覗き、ひっそりと彼が人間とは異質な存在であると主張していた。
最初はライカちゃんと緋色の髪のイアンさん、カイル氏が人間だと思っていたのだが───
油断なく周囲を警戒するその黒瞳は、間近で見ると深い紺碧色をしていて、その虹彩はまるでブラックオパールのように複雑な色味を帯び輝いていた。
目鼻立ちも整っていてぶっちゃけイケメン、と言うよりヴィンセントさんと同じで、タイプ的には違うが綺麗な部類に入る容貌だと改めて見て思う。
普段は簾の如き重い前髪の間からギンギンに睨んでいる、目つきの悪い青年と同一人物とは思えない。
つか、あれってワザとなのかな?
ふとそう感じたが、理由が判らない。
シンプルな細身のボトムやクロスストラップつきのミドルブーツ、ショート丈の尾錠つきの革ベストに綿の開襟シャツというありふれた感じの出で立ちなのだが、手足も長いのでモデル張りにスマートな印象を与えている。
仕事着かもだけどカイル氏の格好、ここではかなり暑そうだなぁ………って、あ!
そこで黒髪の青年の黒革のベストの胸元が、あり得ない状態になっている事に気づく。
*誤字等微修正しました*
【'24/01/18 12:48 鬼加筆して微修正してます】




