ミズガルズ【1】
世界樹を通ってミズガルズへ到達するまでの記憶は───正直言ってかなり曖昧だ。
ぶっちゃけ記憶の大半は垂直落下の恐怖で占められている。
極限のストレスは人の脳を削ぐ刃と同じだ。
私にとってのっけからまともな時間感覚のないこのニウ・ヘイマールで、なぜか落ちる───いや、落とされると言った方がいいかも知れない───事がやけに多く、これも地味に里和ちゃんのガリトラップじゃないかとすら考えていた。
その落ちている最中の時間も、恐らくカイル氏に訊けばほんの数十秒───もしくは数分の出来事なのかも知れないが、私には体感的に十数分ぐらいに感じるほど長く思えてしまう。
無論、この時の私には悲鳴など出す余裕は皆無だった。
普段口数の少ない黒髪の青年が気を使ってか、何事か喋っていたような気はするが、生返事ばかりでずっと硬直していた私が覚えている訳もなかった。
そんな中、視えてはいないはずのカイル氏が、全く迷いなく確実にユグドラシルの根に飛び込み、その瞬間、垂直落下からジェットコースターに切り替わった───と言うより、スライダー状態で滑り降りていっている感覚だ。
乳白色に虹色の光の粒が輝くユグドラシルの根の中を、ミズガルズから吹き上げてきていると思しき風と、滑り降りてゆく風圧に煽《あお》られながら、いつ尽 きるともない不思議な空間の中を突き進んでゆく。
そこで垂直落下よりジェットコースターの方が平気だった私は、ようやくそこで口を開く余裕ができた。
「あのっ……これからどこへ───?」
すると私を庇いながら滑り降りていた黒髪の青年が驚いた様子で私を見た。
そこで私は、強風で激しく靡く彼の烏の濡れ羽色の髪から覗くモノを見て、以前に気づいた違和感の正体を知る事となる。
「……さっきも言ったと思うんだが、南にあるアイラーツァと言う大陸でリワ達と落ち合う予定だ」
先刻?
もしかしなくても垂直落下中ですか、そうですか。
「うん、ごめんなさい。さっきはほぼ聞こえて無かったと思う」
「なるほど……道理で話が変に噛み合ってるようで殆ど噛み合ってなかったはずだ」
えー……私と一体何の話をしてたんだろう?
「とにかく、ユグドラシルの場所だけはきちんと教えてくれてたし、あんたの背中に仕掛けたリワの魔法がちゃんと発動して根の中にも入れたから、結果オーライって事で」
………そ、それって……… ‼
一気に私の顔から血の気が引く。
そして『光芒の宮殿』から出てきた時、美女エルフが私の背中をやたら叩いてきた事を思い出す。
あれってこの時のための───
そんな私をよそに、眼前に更なる眩い光が広がり始める。
「ミズガルズに出るぞ」
少し投稿遅れます
何とぞ良しなに
*微修正しました*
【'24/01/12 加筆修正しました】




