アクシス・ムンディ【10】
え、え、え……………えーーーーーーーーっ!?
う、嘘だ……何これ?
私は無意識のうちに、黒髪の青年の着ている黒のソフトスキンのショートベストを両手でぎゅっと握り、高さを忘れて思わずそのアールヴヘイムにできた巨大な空を覗き込む。
その奥には暗闇ではなく、以前も見た荘厳で幽夢な姿が密やかに世界に根を下ろしている。
「世界樹───」
私はその存在の玲瓏さに陶然となりながら、我知らずその名を呟いていた。
根の一部ではあったが、そのオパールの如き淡い虹色の輝きが間違いなく世界樹であると教えてくれている。
「そう言えばあんたには視えるんだったな。俺にはただの真っ暗な空洞にしか見えないが───って、あんま前のめりになると、落ちるぞ」
はっ、そ、そうだった───!
その幻惑的な宝樹に見惚れていた私は、カイル氏の言葉でふと我に返り、ついそのまま真下を見てしまう。
う……鬼高い…………!!
落とした視線の先には、意外に近場に美女エルフが開けたと思しき巨大な穴の縁があり、いまだにパラパラと土や草がその中に落下してゆくのが見える。
うっかり落ちてしまえば、無惨な結果が待ち受けているであろうほどの高さだ。
ここから垂直落下する事を考えるだけで頭がクラクラして身が竦み、握る両掌にじわっと汗が滲んでくる。
結構太めの広葉樹の枝の上にはいるのだが、改めて見ると二人分の体重を支えるには心許なく感じられた。
そんな私の怯えた表情を見て、かなりワザとらしく黒髪の青年は話題を変えてくる。
「しかし想像以上に派手にやってくれたな。でもこれで、アールヴヘイムの崩壊は取敢えず止められたみたいだ。リワが開けた大穴を見たらアーロン様は頭抱えそうだけど」
───ん?
どーゆ事?
いやいや、そう言えば───
「里和ちゃん達は!?」
「大丈夫だ、心配ない。あんたが視てる世界樹から今頃ミズガルズのどこかに降りてるはずだ」
……そっか、無事なんだ〜……って、もしかして知らなかったの私だけ?
私がキッとなって黒髪の青年に視線を移すと、珍しく彼は困ったような表情になり、焦ってしどろもどろで言う事には───
「イヤ、リワが……不穏な気配は感じてたみたいなんだけど、どのタイミングで襲ってくるかは掴みにくかったみたいで───だから、そんな不確かな事はあんたを不安にさせるだけだからって、ヴィンも言ってたし」
成程……仰る通り、かも知れないけど。
私みたいなのはニウ・ヘイマールでは役立たずなんだろうし。
深勘ぐりなだけなのは判っていても、妙な疎外感が拭いきれない。
小学校を転校した時の寂寥感がフラッシュバックする───
私はどこに行ってもよそ者なんだな。
そんな事で微妙に凹んでいると、予想外の言葉が相手から発せられる。
「そんな顔するな」
え?
私は思い切りポカン顔になる。
「次からは俺がちゃんと可能な限り教えるから───まあ、それでも機密事項によっては駄目な事はあるから、それは許してくれ」
「あ、イヤ……そんな」
つもりは無かったんだけど、と言う前に───
「じゃ、俺達もリワ達の後を追うぞ」
彼は私の言葉を待たずにいきなり私の体を抱えたかと思うと、間髪入れずにそこから里和ちゃんが開けたらしい穴の方へ飛び出した。
私の反応は───推して知るべし。
『イギリスの歴史と時代背景』
https://walk.happily.nagoya/
参考にさせて頂きました
【'25/01/07 誤字改行修正しました】




