アクシス・ムンディ【9】
その間、実に数分数秒単位の出来事だった。
私が闇霧の投網に捕われそうになった次の瞬間───猛スピードでカイル氏が飛び込んできて私の体を抱え、彼の頭上のすれすれでそれを躱し、そのまま近場の樹上へと飛び上がる。
色んな意味で悲鳴も出ない私をよそに、黒髪の青年は木々の間を縫うようにしてその枝を軽々と渡りながらそこからどんどん離れてゆく。
暗くて見えな───ければ良かったのだが、激しくブレる視界の中で自分がまた結構な高さにいる事に気づき、新たな恐怖心のせいで忍者のような身のこなしの青年にしがみつくしか術がない。
しかしそこで、ふと違和感を覚える。
……あれ?
とは言え今はそれどころではなく、向こうの様子を確認でき、カイル氏が危険を回避可能と判断したであろう距離まで来ると、その樹上で一旦待機する事になってしまった───そこでは私のガクブルは止まらない。
気づくとヴィンセントさん達を襲っていた黒い魔障の軍団は、里和ちゃんが発する神々しい輝きの光に照らし出されたままフリーズしており、その黒い体は光の圧力に負けたかのようにバラバラと粉を振りまくみたいに分解し始めているのが見えた。
影みたいだから光で消えるのかと思いきや、やはりある程度の実体を伴った靄とかに近い存在なんだな、とそれを見て思う。
それまで必死で剣を振るっていたヴィンセントさん達は、ようやく黒デロもやもや軍団から解放されほっとした様子で、魔法を詠唱し続ける里和ちゃんの許へと駆け寄ってゆく。
そしてその黄金色の光源たる美女エルフが、更にその身を輝かせながら高らかに朗唱する。
「麗しき光華なるバルドルの名に於いて、この忿怨暗愚たる闇魔の重き鎖を、其の清浄たる御身の流息を持ちて吹き聖め喝破し給え───!」
里和ちゃんの発する流露な声音が辺りに響き渡ると、正視できないほどに彼女自身が強烈に発光しだし、一帯が眩く巨大な球に飲み込まれてしまったかのように見えた。
うっわ、まぶしっ………どうなったの?
眩惑され微妙に視線を逸らしていると、思った以上に急速に縮んでゆく光の球が視界の端に映った。
「……終わったか」
不意に傍らで同じように見ていた黒髪の青年がぽつりとそう漏らす。
その表情はいつもの仏頂面とは違い、ポカーンに近い真顔であった。
終わったって、あの変な黒いの、里和ちゃんが魔法でやっつけてくれちゃったって事?
私がそう思いながら里和ちゃん達がいた場所に顔を向けると、そこには思っていた風景とは全く違う景色が広がっていた。
……………え?
それを見て、私はただただ愕然とするしかなかった。
恐らく直径30mほどの巨大な穴が、そこにぽっかりと開いていた。
そしてあの黒い化け物も、里和ちゃん達も、そこにあったであろう森の木々すらも消えていたのだ。
ちょいちょい加筆誤字脱字修正とかしてますが、何とぞご容赦願います




