アースガルズ【2】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
あー、噂の『ニコラ・デュボワ』こと銀次君の兄とか言ってた───って事は、実の兄って事もないだろうから、恐らく里和ちゃん、の……?
私がそんな事を思いながら微妙に首を捻っていると、自らの執務机の糸杉葉色の革張り椅子にゆったりと腰を下ろした深紅の髪の麗人が、さも愉快そうにその艶やかなベビーピンクの薄めな唇を開いた。
「早速、貴殿の兄が嗅ぎつけて来たようだな、ニコラ・デュボワ副社長殿───判りました、お通しして下さい──あ、それとお茶ももう一つお願いします」
モニカ・エアハルト委員長は苦笑いしながら舞台俳優のように通るアルト・ヴォイスで、扉の向こうの部下らしき相手に朗々とした調子でそう伝えると、今度は私の目の前にある一人掛けソファに浅く座っていたニコラ・デュボワ『副社長』と呼ばれた銀次君が、細めの眉根を少し寄せたかと思うとかなり厄介そうに口を歪めながらそれに応ずる。
「ええ、シャルルはでっかい犬みたいなモンですから───」
と、ヒースグレーのソフトモヒカンの少年が呆れたようにそう言うや否や、かなり荒々しく重厚な扉が開かれた。
そこに現れた人物に思わず目を見開く。
──ん ⁉ カイル?
そんな自分の茫然とした考えと同時に、私の傍らに鎮座していた老ドワーフが、ほう、とやはり驚きに似た感嘆の声を漏らしていた。
その声でにわかに我に返ると、私は無意識のうちに首を微かに横に振りながら、瞬時にそれが全く違う相手である事に気づく。
……いやいやいや………それにしては全体的にやけに白い、ぞ───?
その淡く青みがかった銀髪を振り乱して勢いよく現れたのは、一瞬、私が黒髪の青年かと錯覚するほど雰囲気のよく似た青年であった。
日に焼けているのか小麦色の健康そうな肌に、緩くウェーブがかった長めの透き通るように輝く青銀色の髪を軽くオールバックにまとめ、それがまた不思議とどこか野性味のある彼の風貌にはよく似合っている。
心持ち面長ですっと通った鼻梁に意志の強そうな太めの眉、鋭く光る金色と見紛うばかりの黄玉のごとき切れ長で二重の双眸、唇は少々厚ぼったく感じるが、それは彼の醸し出す上品ながらもどこかワイルドな佇まいをより際立たせていた。
上質なウールギャバジン生地で仕立てられたスチールグレーでダブルブレストのフロックコート、その下にはパールホワイトでサテン地のウエストコートを着用しており、ボトムはストレートなシルエットでチャコールグレーのトラウザーズ、足元はボックスカーフっぽい黒のアンクルブーツと言う洗練された出で立ちながらその背高い体躯は、一見細身ながらもひ弱さは微塵も感じられない。
あらら……これはまたイケメンが懲りもせず出て来る事だわ、と最近は美男美女を変に見慣れてきてしまった私は、多少食傷気味な調子でぼんやりとそんな事を考えていた。
「ニコラ……! やっと帰って来たのか、お前っ───」
ふと、シャルル・デュボワと思しき青年はそんな私の視線に気づいたのか、つと私を見詰めたままなぜか動きを止めた。
おや……?
私も何となく視線を逸らせぬまま思わず小首を傾げ、シャルル某と思しき相手に向かい、無意識のうちにニカッと軽く笑いかけていた。
すると、その私の様子に衝撃を受けたような表情になり、なぜかその精悍な容貌に血を上らせ、妙な冷や汗までかき出した。
あらららら?
どうしちゃったんだろう、この人、と思いながらこの場にいる他の面子に視線を移す。
私の横に座っていたシュミットさんは珍しく意味ありげな笑みを私に向けており、ふと気づくと私たちのソファの横に音もなく立っていた『ニコラ・デュボワ副社長』と男装の麗人に呼ばれていた銀次君に思わずぎくりとする。
い、いつの間に─── ⁉
全く気配を感じさせなかったヒースグレーのソフトモヒカンの少年は、右手で自分の頭を掴んで左右に首を振っていたかと思えば、私の視線に気づいて慌ててぷいっと視線を外してしまった──まぁ、私は銀次君に嫌われてるのだからしょうがない。
モニカ・エアハルト委員長もなぜか、その美貌に笑いを堪えているかのような表情を滲ませながらこの場のなりゆきを見守っているようだった。
えぇぇ……?
一体何なの─── ⁉
そんな私の戸惑いにお構いなく、不意にシャルル・デュボワと呼ばれた一見ビジネスマン風な青年は、変に辿々しい口調で私を凝視したまま言葉を繰り出してきた。
「あ……貴方、様、が───ど、魔法使いリワ様の御友人の……ま、マーガレット・マクシェイン・オハラ様……ですか?」
「えっ……? ええ、そのようです」
いまだに急にラストネームに『オハラ』をつけられてる理由が判らないんだけども───
私はシャルル某に曖昧な返事をしつつ内心憤懣やる方なしと思いながら、引き攣りそうになる顔に無理やり笑顔を貼りつけると、青銀色の髪のビジネスマン風な青年は更にたじろいだように口をパクパクさせながら何事か喋りだす。
「かっ、かわ……ぐはっ!」
ところが、そんな兄デュボワと思しき相手が変にふらふらした足取りで私に向って来ようとするのを、すかさず弟デュボワたる銀次君がいつの間にかその兄と呼ぶ相手の懐に入り込み、なぜか思い切り強烈なボディブローを食らわせていた。
こんなに間が空いてしまうとは自分でも思わず、大変遅くなって申し訳ありませんでした
なるべく早く書けるよう努力はしておりますので、気長にお付き合い頂けるとありがたいです
今回も古ノルド語等の翻訳・資料集めに Gemini、Google検索、Wikipedia、OpenL Translate を使わせてもらっております
また誤字脱字等加筆修正するとは思いますが、何とぞよしなに願います
【'25/07/04 誤字脱字加筆修正しました】