ナエポルエ・ユニオン【10】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
深紅の髪の麗人の言葉に私は硬直する。
私、いつから里和ちゃんの名代になったの ⁉
頭の中で○チョウ倶楽部並みの「聞いてないよー!」が反響していた。
驚きのあまり目が点になっていた私をよそに、表向き『ニコラ・デュボワ』こと里和ちゃんの使い魔の銀次君が、どこかむっつりとした様子で私を無視したまま、定型文を読むように硬い口調で言葉を続ける。
「はい、エアハルト委員長。彼女がこの度、スヴァルトアールヴヘイムを解放した俊傑、魔法使いマーガレット・マクシェイン・オハラ───アールヴヘイムの妖精王アーロン・ライオネル・オハラ様のご令姪様に当たる御方になられます」
韓流アイドルのような容貌でヒースグレーのソフトモヒカンの少年は、やたらと私を恭しいながらも変に口上染みた角のある調子で紹介してくれたその内容に、絶句したまま私の目は徐々に大きく見開かれていった。
え……?
今、何と─── ⁉
よ、妖精王の……ぐぉっ……ぐぉれい、めい───?
マーガレットさんの名前の最後に聞き捨てならない苗字が…… ?
い、いや、それ以前に、何か思い切りマーガレットさんの身バレ、してもいい、の─── ?
いやいやいや───まっ……まさかっ………これってまた里和ちゃんの妖精の悪戯なのかっ─── ⁉
私が内心ムンクの叫び状態になって、無意識のうちに右斜め後ろに控えていた『ニコラ・デュボワ』こと銀次君を惘然と見据えていたところ、眼前に佇んでいた私より十数cmほど背高く見えるエアハルト委員長が軽く失笑したかと思うと、堪りかねた様子で口を開いた。
「に……ニコラ・デュボワ、魔法使いリワ殿の名代───魔法使いマーガレット殿が貴君を凝視したままうち震えているが、問題ないのか?」
その柳眉を少し顰め、笑いを堪えるかのように右手で口元を押さえ、深紅の髪の麗人は微かに声を揺らしながらそう声を掛けてくるが、傍らのそんな私をちらと一瞥すると特に意に介した風もなく再び正面に視線を戻し、更にフォローとは思えぬ口調のまま銀次君は謝罪の言葉をつらつらと喋りだす。
「……あぁ、申し訳ございません、エアハルト委員長。既に聞き及んでおられる事とは思いますが、魔法使いマーガレット・マクシェイン・オハラはつい先だって、それまでスヴァルトアールヴヘイムを非合法に陰邪魔術の強力な魔力で支配していたエルキングとその王女であるヘルヤ一派を、魔法使いリワに劣らぬ強大な魔力を以て一掃されたのですが、残念ながらご本人にその自覚がまだ追いついておりませぬ故、現在まだ混乱されてるご様子で───大変ご無礼仕りました」
まるで私に透かしっ屁を喰らわすが如く能弁なヒースグレーのソフトモヒカンの少年の放つ言葉の慇懃さに、さしもの私も腹の底から沸々とした怒りが込み上げて来る。
ぶっ、無礼ぇて……!
どっちが……いや、モニカ・エアハルト委員長は全っ然無礼じゃないんだけど、里和ちゃんや銀次君は私にがっつんがっつん無礼千万なんだけども─── ‼
そこで、私と深紅の髪の麗人の間に挟まれるようにして所在なげに立っていた私より数cm低めの身長の老ドワーフは、そんな私たちのやり取りに呆れた様子で溜め息混じりで口を開いた。
「……やれやれ、見てられんのぅ」
そこでモニカ・エアハルト委員長は少々堪りかねた感じで、そんな険悪ムードを醸し出した私たちの間を割るように口を挟んできた。
「相判った───既に貴君の兄───社長から大体の話は聞いている。ご老体もお疲れのようだし、取り敢えず私の執務室で話の続きをしよう───さあ、魔法使いマーガレット殿、名匠フーベルト・シュミット翁、こちらへ」
深紅の髪の麗人は意識的ににこやかな笑顔をその美貌に貼り付けると、そのまま老ドワーフの背に手を添え、先へ促すように深いダークブラウンの読書テーブルの間を一緒に歩き出す。
その後を追うように、すんとした表情のままのヒースグレーのソフトモヒカンの少年と辛うじて怒りを堪えていた私も、古書が発する独特の匂いが漂う薄暗い室内を険悪なムードのまま移動してゆく。
そんな負のオーラをめらめらと放つ私の存在など目に入らないかのように、『ニコラ・デュボワ』こと銀次君はモニカ・エアハルト委員長と更に話を続けた。
「シャルルがこちらに伺っておりましたか」
「あぁ、貴君からなかなか連絡が来ないとぼやいていたぞ」
その男装の麗人の誂うような口調に、なぜか韓流アイドルのような少年は渋面になりながらも、驚くほど優雅な仕草で私を自分の前に立つようにアテンドしてくる。
気づけば私たちは数台のオーク材の学習机の間を抜け、壁際にあった一台のアンティークなライティングビューローの前にいた。
……銀次君の兄?
しゃるる⁇
私が眉間に皺を寄せたまま首を傾げていると、徐ろにモニカ・エアハルト委員長がライティングビューローの棚の天板を開き、そこからいきなり階段が姿を現した。
かっ、隠し階段─── ⁉
私が変形式図書館階段に唖然とし、天井にいつの間にかぽっかり開いた出入口を見上げていると、深紅の髪の麗人はにっこりとそんな私に微笑みかけながら優しい声で誘いかけてくる。
「では、参りましょうか───」
更新めっさ遅くなって申し訳ありません
今回も資料収集、翻訳はGeminiにしてもらってます
また誤字脱字加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【'25/06/02 誤字脱字加筆修正しました】
遅くなりまくって申し訳ありません