表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/215

ナエポルエ・ユニオン【8】


あれから私とスヴァルトアールヴヘイムの国匠(こくしょう)たるフーベルト・シュミット氏は、『黒鉄の狼(ジャーン・ウールヴ)城』の城下町を抜け、美女エルフがこっそりと (?) 設置したという転移魔法陣のある家屋へ到着した。


そこはやはり里和ちゃんが抜かりなく防御魔法なんかを(ほどこ)してあり、まだまだそこかしこに(ひそ)んでいるという、反アールヴヘイムの残党───要するに、スヴァルトアールヴヘイムの愛国者と言うまやかしな名目の、エルキングのどす黒い悪意に洗脳されきった連中なのだが───から隠すためであった。


私は老ドワーフと共に、その町外れにある木造のボロボロと言っても過言ではない、二角獣(バイコーン)が、十数頭いる馬小屋に足を踏み入れる。


乾いた飼い葉とボロの臭いの漂う狭い厩舎(きゅうしゃ)内を、時折(ときおり)二角獣(バイコーン)(そで)やドルイドマントを()まれて引かれたりしながら奥へと進んでゆく。



「遅かったな───待ち草臥(くたび)れたよ」



不意にその奥から聞き覚えのある、ちょっと低めのアルトの声が不機嫌そうな響きを帯びて私に投げつけられた。



「ごめんなさい───ちょっと、シュミットさんと話し込んでしまって……」



私がその声の主であるヒースグレーのツーブロック・ソフトモヒカンの少年に言い訳しつつ、どうにか笑顔を()りつけてそう答えると、どこかの誰かを彷彿(ほうふつ)とさせるような黒づくめの少年はあからさまにふいっと私から視線をそらす。


表向きは隠して行動しているが、美女エルフの従者かつ使い魔の銀次(ギンジ)君だ。


外見は韓流(はんりゅう)アイドルのようなシュッとしたハイティーンの少年なのだが、とにかく自分の(あるじ)である里和ちゃんに心酔(しんすい)していて、今は彼女に感化され過ぎて割と自由に様々(さまざま)な国に潜入しては、同じ使い魔仲間のピリカちゃんを通じて情報を伝えてきたりしているらしい。



あー……そう言えば私、この子から良く思われてなかったんだっけ───



微妙な既視感(デジャヴ)に襲われながら、私は思わず苦笑する。


悪意のある無視は、嫌がらせや嫉妬(しっと)の感情が複雑に(から)んでる場合が多い上、その感情を判りやすく効果的に相手(ターゲット)にぶつけてくるので、目の(かたき)にされた者の精神的ダメージが強烈(きょうれつ)になったりするのだが、不思議と銀次君にそんな悪意はないように思え、恐らく(あるじ)である美女エルフなんかに義理立てし、そんな意地を張った態度にさせているのではないかと思えていた。


これも一重(ひとえ)に、前例になってくれた黒髪の青年のお陰とも言える訳なのだが───



なんか可愛いから、まぁ、いっか……。



私はこのテの相手に変に逆らっても無駄な事は、(すで)にカイルで学習済みなので、我ながら疲れ切った精神状態のまま相手をするのもぶっちゃけ面倒だったのもあり、そのまま仁王立(におうだ)ちしている少年の元へ、老ドワーフと共に近寄ってゆく。


ところが、その私たちを眼前にして銀次君は少々ぎょっとした表情になる。


私がそれに少し首を(かし)げていると、(かたわ)らのシュミットさんがその皺深(しわぶか)い温和な表情を(ゆが)め、珍しく声を(かた)くして口を開く。



「何じゃ、この態度の悪い坊主(ボウズ)は? 昔のカイルみたいな(ヤツ)じゃな」

「……オイラ、カイルさんに似てますか?」

「うむ。悪い意味で、な───まぁ、今やあやつはこの綺麗なエルフの嬢ちゃんに、首ったけじゃがの」



その老ドワーフのからかいを(ふく)んだ言葉に私はぎくりとし、にわかに熱くなった顔を意識しながら、反論しようと口を開くが酸欠(さんけつ)の金魚よろしくパクパクさせるのみで、なぜか言葉は一切(いっさい)出ては来ず……。


でもふと、シュミットさんにそう言われてみれば銀次君、ミニカイル (笑) って言うか、何となく雰囲気(ふんいき)とか()で立ちが似て、る───かも?


すると韓流アイドルみたいな外見のソフトモヒカンの少年は、そんな私の様子(ようす)尻目(しりめ)苛立(いらだ)たしげに舌を鳴らすと、ふいっと私達から背を向けながら急に居住(いず)まいを正したように(しゃべ)りだした。



「では、こちらです───スヴァルトアールヴヘイムの国匠(こくしょう)フーベルト・シュミット様。ナエポルエ・ユニオンのモニカ・エアハルト委員長がお待ちですので」



そう言いながら奥にあった一つだけ空いた馬房(ばぼう)の前に来ると、銀の腕輪をはめた左手をその前で(かざ)す。



我は命ず(エック・ビューイズ)───この地の(テング・ズー)意思を彼の地に・ヴィリャ・セッサランズ繋ぎ給え・ヴィズ・ザッド・ランド!」




ソフトモヒカンの少年がそう唱えると、銀の腕輪がぱぁっと白く輝きだし、その手を中心にして蛍光グリーンの魔法陣が浮かび上がる。



「では、参りましょうか───」



銀次君はきりっとした表情で、先ほどの私に対する悪態(あくたい)など忘却(ぼうきゃく)してしまったかのようにそう私達を(うなが)してから、先に自分がその綺麗な幾何学模様(きかがくもよう)の魔法陣の中に吸い込まれるように入って行ったのだった。



ここのところ新規投稿等遅くなってて済みません

毎度ですが、古ノルド語はフリーのウェブ翻訳や生成AI (Gemini)、wikipediaやググるさんを使ってはおりますが、間違ってる可能性もあるので何とぞご了承願います

【'25/05/10 誤字脱字加筆修正しました】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ