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ナエポルエ・ユニオン【2】



終わりのない(エンダラウスル・)黒の洞窟(スヴァルト・ホール)』はその名の通り、何処(どこ)まで続いているのか誰も知らない───それは常に変動し、拡張し続けているからだ。



まるで洞窟そのものが生きているかのように。



安易(あんい)にこの洞窟に足を踏み入れた者は、すぐにこの場所へ来たことを後悔するだろう。


何時(いつ)の間にか帰り道を見失い、永遠(えいえん)にこの洞穴(どうけつ)彷徨(さまよ)い続ける破目(はめ)になるのだから。



そして二度とは外へ出られない事を、その命を()って知るのだ。



×××××××××××



そんな話をカイルから聞いてゾッとしたのも(つか)()、すぐにこの洞窟の事を誰よりも知っているのがスヴァルトアールヴヘイムの巨匠(きょしょう)フーベルト・シュミット氏だと聞き、私は心の中で諸手(もろて)を上げて喜んだ。


実はカイル、地味に『終わりのない(エンダラウスル・)黒の洞窟(スヴァルト・ホール)』の出口が判らず、たまたま見つけた広めの場所で野営してただけだったらしく───その事実を聞いて、いろんな意味でこーわっ、と私が身震(みぶる)いしたのは言うまでもなく。


しかしなぜかこの洞窟、割と簡単にそこら辺の外には(つな)がっており、ついさっきまで私たちが外の雪景色(ゆきげしき)(なが)めていられたのはそのせいな訳で。


ただ洞窟自体からは出られても、スヴァルトアールヴヘイムの極北の広大無辺こうだいむへんな森林地帯───鉄鎖のジャーン・ケイジュス・(スコグル)は、いわゆる日本で言うところの青木ヶ原樹海(じゅかい)のような所で、方位磁石(コンパス)がまともに()かないばかりか魔溜(まだ)まりが異様に()い地域らしく、聖精(せいせい)魔法などの白魔法が上手く使えない場所とのことで。


つまり、外に出られたとしてもスヴァルトアールヴヘイムの果てしなく続く樹海で永久に彷徨(さまよ)い続ける()()()い、下手(へた)をすれば『終わりのない(エンダラウスル・)黒の洞窟(スヴァルト・ホール)』の無数にある別の出入口に辿(たど)()いてしまう始末だという。


結局南極水道局───どっちに転んでも迷い続ける天然の迷宮(ラビリンス)みたいな場所ってことで……あ、洞窟だから迷路(ダンジョン)と言った方が正しいのかも。


無論、この底なし沼みたいな迷路(ダンジョン)もどきの洞窟には、かなりのお金になる資源がごろごろ眠ってたり徘徊(はいかい)してたり埋まってたり襲ってきたりするような、美女エルフがウハウハするかなりエグい地帯(エリア)なのだが、それはまた後日談で。


とは言え()(ほど)、バフカウフなんかの魔獣や妖魔たちがこの場所に集まってくる原因もその話で納得(なっとく)できた。


それと、黒髪の青年が呑気(のんき)に野営していた理由も───要するに、シュミットさんが(むか)えに来てくれると判っていたからなのだろう。



とにかく、カイルとそんな信頼関係に結ばれている老ドワーフの名匠(めいしょう)は、マーガレットさんの母親のことを何故(なぜ)知っていたのか?



恐らくここに捨てられていたカイルの件と、無関係ではないような予感が薄っすらとしていた。



───いやまさか、マーガレットさんとカイルが異母兄妹(いぼきょうだい)とか恐ろしい話になんか、ならないよ……ね?



私だけがそんな一抹(いちまつ)の不安を抱えたまま、再び遠大(えんだい)暗鬱(あんうつ)な洞窟内に、その黒髪の青年に手を引かれながらすごすごと(もど)ってゆく。


脳内に地味にドナドナが流ていたのは言うまでもなく。



うじうじ考えてたって仕方(しかた)ない───つか、何で私がこんな訳(わか)んないことで悩まなきゃいけないんだ……?


本来なら私はマーガレット・マクシェインじゃないのに。



何だ、この気持ち……私は一体、何なんだ─── ⁉



そして意を決し、魔光石(まこうせき)化した蛍石(フローライト)を使用した真鍮製(しんちゅうせい)(おぼ)しきランタンを腰の黒革のベルトに下げ、私たちを先導(せんどう)してくれているシュミットさんの小さいながらも頑丈(がんじょう)そうな、その頼り甲斐(がい)のある背中に向かっておずおずと言葉を切り出してみる。



「……あの、それでシュミットさん───いくつか質問があるんですが……()いても大丈夫ですか?」



私が洞窟内の足場のかなり悪い、獣道(けものみち)とも言い(がた)(とが)った大小の岩や砂利(じゃり)に足を取られながら、恐る恐る口を開いた。



「何じゃ、妙に(あらた)まって」

「あの……居酒屋(シェンケ)での、ローズマリーさ……いえ、私の母の話を」



私がそう口火(くちび)を切ったところで、はっとしたようにカイルが私を振り返り、少し困惑して何か言いたげな表情を見せる。


そんな黒髪の青年の反応に、私は無意識のうちにすっと視線を外してしまっていた。



「あぁ…… あの時はローズマリーと間違えてしまってすまなかったな。あんたがあまりにも若い頃の彼奴(あやつ)にそっくりだったものでな……まさかその娘さんとはの───長生きはしてみるもんじゃ」



そんな私たちを知ってか知らずか、老ドワーフは遠い目になりながら言い訳めいた調子でそう独り言ちるように話し始める。


ランタンの淡い光が私たちの影を、鍾乳石(しょうにゅうせき)石筍(せきじゅん)などにゆらゆらと照らし出す中、私は小さくなりそうな声を頑張って(しぼ)り出しながらどうにか質問を続けた。



「それで私の母はこちらではどういう───その、私、母の事はほぼ判らないんです……兄の話だと、私を産んですぐに亡くなってしまったとしか……」



以前、こちらの世界(ニウ・ヘイマール)の私の兄であるヴィンセントさんとローズマリーさんの話になった時、その行方(ゆくえ)()いてみたのだが、どこか申し訳なさそうな表情をその白い麗貌(れいぼう)に乗せたかと思うと、なぜか詳しくは教えてくれなかったのだがその事実だけを伝えてくれたのだった。



「……そうか、なるほどのう。まぁ、端的(たんてき)に言えば、ローズマリーは(わし)を殺しに来た暗殺者(ミルズィル)じゃ」



古ノルド語沼で溺死寸前で、更に相変わらず睡魔に襲われてます……変な所に拘るのはやめなきゃと思いながら───また誤字脱字加筆修正させて頂きとう存じます

【’25/03/30 誤字脱字加筆修正しました】

【’25/04/11 加筆修正しました】

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