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スティルヌソルプ【9】


魔力暴走───膨大(ぼうだい)な魔力を有する者がその力をコントロールしきれず、(おのれ)の魔力に()み込まれ暴走する現象。


それは時に街を丸ごと、()しくは一国を丸ごと───最悪の場合、世界丸ごと破壊する威力を有する。


取り替え子(チェンジリング)でもある偉大なる魔法使い(ドルイダス)里和(リワ)は、その(マイナス)の現象を武力に変換・コントロールする事に成功し、自らこの世界(ニウ・ヘイマール)のあらゆる暴力の抑止力として君臨す。



×××××××××××



終わりのない(エンダラウスル・)黒の洞窟(スヴァルト・ホール)』から外へ出ると、そこは判りやすく雪国だった。


息を吸えば肺まで凍りつきそうな天然のフリーザーな空間───高校の頃、(しばれ)過ぎてローファーの底が数回割れた事をぼんやりと思い出す。


立ち並ぶ大小様々(さまざま)な針葉樹林と(おぼ)しき樹木は、自然のクリスマスツリー状態になっていて、それは間違いなく暗闇の奥まで続いているのだろう。


久方振(ひさかたぶ)りに見る(なつ)かしさすら感じてしまう雪景色に、無意識のうちに笑みが(こぼ)れてしまう私なのだった。


スヴァルトアールヴヘイムの極北(きょくほく)にある冬の風景はそれほど美しかった。


この日は闇色に(にじ)雪雲(ゆきぐも)が広がる上空から、白い綿雪(わたゆき)が音もなく深々(しんしん)とそぼ降っていた。



「……真夜(マヨ)、本当に雪国生まれなんだな」



(かたわ)らで、多少(あき)れたように目を細めてそんな私を見下ろし、白い息を吐きながら小刻(こきざ)みに震えている黒髪の青年は、寒いのがかなり苦手のようだった。


なぜ私たちがこんな場所に来たかと言うと、単純に私が雪を見たかったという理由と、カイルに思いっきり頭を冷やしてもらいたかったという───


何せ、あれから私がすっぽ抜けた記憶の話を()こうとすると、なぜか真顔でそのまま体を押し倒してきたので、私は問答無用で相手の鳩尾(みぞおち)に右(ひざ)を突き出した訳で。


これ以上無理()いされると所謂(いわゆる)デートレイプという犯罪になる───よく男性の論理で二人っきりで密室についてきたらOKという神話は現在では完全に通用しない───それは夫婦間であっても全く同じ。


で、怒り心頭(しんとう)したままこの場所にやって来た私と、明らかに落胆(らくたん)した表情を隠そうともしない黒髪の青年は、冷静に話し合いをするためにこの場所に移動してきたという理由もあったりなかったり。


第一私たちは(つね)に何があるのか判らない状況に置かれているので、念のため美女エルフ謹製(きんせい)四次元(よじげん)p……もとい、ドルイドマントの(ふところ)に収納してあった冬装備に着替(きが)えてはいた。


その寒冷地仕様(しよう)の衣服には里和(りわ)ちゃんが生活魔法を強力アレンジした防寒の呪文がかけられていたので、お陰で私には全然温かかったぐらいで───無論、彼女も私と同じ港街で育っているので当然の(そな)えなのだ。


微妙にがたがたと震え続ける全身黒づくめの青年に私は苦笑し、まぁ、今は弥七(ヤシチ)ぐらいしかいないから、いいか、と腹を(くく)り、すっとカイルの前まで行くと、彼が着ていた黒いマントの内側に自分から入ってそのまま頭だけ出し、再び前方の雪景色を(なが)める。


もう少しこの()て通る懐かしい空気感を堪能(たんのう)していたかった。


ただこういうの、普通は男女逆なシチュエーション、かな───まぁ、ジェンダーレスな時代じゃどっちでも同じことか。



「これで少しは温まるんじゃ───」



ないの、と言おうとしたら、判りやすくバックハグしてきた。


途端(とたん)に、それまで私のドルイドマントのフードの中で眠っていたと(おぼ)しき(さば)トラ小猫化していた使い魔は、ぎゃっと悲鳴を上げて(あせ)った様子で(つぶ)されまいと飛び出してくる。



「うん。こうしてればあったかい」



妙に嬉しそうな声の調子で、結構強めの力で抱きしめてくる───私が簡単にその腕の中から逃げ出せないように。


さっきまでの不機嫌さはどこ吹く風……なんつーか、カイルってば、ちょっとちょろ過ぎてそれでいいのか、と問いたくなる私であった。


でも恐らく、黒髪の青年がスヴァルトアールヴヘイムに来てこの場所に近づく(ごと)に様子がおかしくなっていったのは、やはり彼が自分の生い立ちを口でやけに明るく語っていたほど単純な話ではないからなのだと、私はそう感じていた。


感情は自分が思うほどそう単純には出来てはいないのだ。


だから私と出会った辺りの頃、彼の後頭部に大きめのじゃりっパゲを見つけてしまった訳だし───酔ったついでにこの間確認したら無くなっててほっとしたのだけど。



そしてそれは、私も同じ───



「悪いけど、もう少しこの風景見させて欲しいんだ」



私はドルイドマントのフードから逃げ出してきた弥七(ヤシチ)を、両手を伸ばしてキャッチしてから自分のマントの内側へ入れ、胸元に抱いてその小さな頭を()でながら(つぶや)くようにそうお願いする。


カイルは黙って(うなず)いて、私の(うなじ)に自分の(ほお)()り寄せてくる。


……やっぱ普通じゃない。


いつもの黒髪の青年であれば、ここまでの真似はできないはずだ。



それだけ不安、なんだ。



「でね、あの時───私たちどうなってこんな所まで来てしまったの?」



私の腕の中でごろごろ喉を鳴らす弥七(ヤヒ)っつぁんのピュリングに地味に()やされながら、私は静かに切り出した。



一体私、また何をしでかしてしまったのか?



『それはオレ様から話した方がいいかも知れない───真夜(メグ)




明日早いので今回はこの辺で───また誤字脱字加筆修正させて頂きとう存じます

【’25/03/11 誤字脱字加筆修正しました】

無事アクセス解析が戻ってほっとしました……対処ありがとうございます

【’25/03/13 悩んだ挙句加筆しました】

詳しくはwikipediaさん辺りが判りやすいです

【’25/03/14 一部加筆修正しました】

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