スティルヌソルプ【5】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
地の底から涌き上がるような野太い声がそう問いかけてきた。
またそれかー。
酔いで回る視界と思考の中、私は思い切りがくりと頭を垂れる。
これから何処へ行ってもその言葉に悩まされて続ける人生……もとい、妖精生が待ち受けているんだろうなぁ、と考えるだけで悪酔いが酷くなりそうだった。
因みにエルキングは現在、美女エルフによってまだまだ生き地獄を味わわされている真っ最中で───なぜなら、恐らく間違いなくいるであろう黒幕の核心に迫ろうとすると一切口を割らなくなっているからであり───
すると、私を抱えていた黒髪の青年が忌々しげに舌打ちする。
「暗闇が深くなるとこの手の連中が出て来るから───まだまだ残党がいるんだよ。だから俺は、あれほど早く帰って来いって言っ───」
訥々と文句を言ってくる相手に面倒臭くなった私は、そのままその烏の濡羽色の頭を両手でぎゅっと抱きしめる。
もー、完っ……全に酔った勢いだ!
泥酔者の狼藉なのだ!
って、こんなの、元の世界であれば老若男女関係なく本来であれば許されない話なんだけども。
そのせいか自分でも判りやすく顔に血が上って熱くなってくるのが判った。
自分でも変に混乱してるのを意識してはいたのだが、アルコールのせいかこの時の私の心のブレーキは完全に壊れてしまっていた。
「だから、ごめんなさいっ……て、次はカイルが案内してくれるんでしょ?」
少し尖ってるその耳元に口を寄せ、開き直った私は囁くようにそう告げる。
ぶっちゃけ自分でやってて鬼寒イボが出る心地がする。
でもメグである今の私なら、勝てる……!
心做しか私の体を抱く腕に力がこもる。
すると私の腕の中の黒髪の青年の頭部がかあっと熱を帯び、それ以上言い募るのを止めて小刻みに何度も頷いた。
内心それにかなり胸を撫で下ろしつつ、今度は奇態な獣にぐらぐらと揺れがちな頭を向け、酔いが回り切っているせいか私は変に恐怖心も感じず、にっこりと満面の笑顔になって口を開いた。
「そんな訳だから、そこの闇の精霊、さん……? 誰だか判らないけど、私たち貴方のエルキング様は倒してないから、そこ間違わないでね───それじゃ、もうそれ以上は何も言っちゃ駄目だし、何かしようとしちゃ駄目だ、よ? このまま大人しく引き下がってもらえれば、この人何もしないと思うから……」
この時の私は、カイルを無事宥められた事実に妙に慢心していたと自分でも思う。
半ば戯けたようにそう言うと、抱きしめていたカイルの頭を解放し、それでもきっと眼前の怪異には睨みを利かせてくれているのだろう、と勝手に想像していた私なのだったが───
そこで何故かそれ以上に、以前気づいてしまった黒髪の青年の頭に見つけたとある異常事態をふと思い出し、またも酔った勢いのまま彼の艶やかな黒髪に両手を突っ込み、まだそれがあるのかと無遠慮にわさわさと探り始める。
後から思えば、よくある酔っ払いの典型的な根拠のない異常行動だったりするのだが、この時の私はそんなこと微塵も思えなかったのが運のツキ───
ニホンザルよろしくカイルの頭を心ゆくまでわしゃわしゃし、それが無くなってる事を地味に確信してにんまりと北叟笑んでいると、そんな私をなぜか初々しく頬を赤らめて見ていた、切れ長のブラックオパールの如き双眸とかち合う。
……あれっ?
その黒髮の青年の端正な白面に見つめられ、思わずぎくりとする。
そこで私は、カイルも私の手から取り上げたジョッキでビールを一気飲みし、連日の激務のせいでがっつり酔いが回ってしまったのか、普通に彼が酔っ払っている事に気づいた。
あ゙、マズい、かも……!
私がそう思う間もなく、対面する奇っ怪な獣から呪詛のような言葉が絞り出される。
「……何を戯けた事を───!」
その次の瞬間、それは赤黒い煙のようなオーラに身を包み、私たちに向って襲いかかってきた。
やっ……ヤヴァい!
『ばっ……か! この酔っ払い共、敵前で何堂々とイチャついてんだよ ‼ 』
今度は鯖トラ小猫化してた私の使い魔の、堪りかねたかのような絶叫に近い思念伝達と同時に、私が着ていたドルイドマントのフードから素早く私たちの間にその身を飛び込ませてくる。
途端に弥七は元の黒ジャガーに姿を変え、謎の異形の主に大音声で咆哮しながら立ち向かってゆく。
弥七……!
私はかなり焦りまくり、咄嗟にウォーターオパールが貼りついている魔杖化した左手の甲を弥七に向って掲げ、叫ぶ───
「スルト、慈悲の護りを!」
古ノルド語は生成AIやウェブ翻訳等使って確認はしてますが、間違ってる可能性が高いので予めご了承願います
【’25/02/28 誤字脱字加筆修正しました】