スティルヌソルプ【1】
え、このお爺ちゃんアマリアちゃんの知り合い?
と、私が訊く暇を与えずに、その赤ら顔の老ドワーフの周りにいた、同じく酒の匂いをぷんぷんさせているドワーフや闇のエルフなどのスヴァルトアールヴヘイムの住人と思しき少々ガラの悪い連中が、どやどやとシュミットと呼ばれた老ドワーフを囲むようにして私達の近くに集まって来る。
うわ、ちょっとマズい雰囲気かも───
私は慌てて被っていたドルイドマントのフードを、更に顔を隠すように深めに被り直す。
しまった……もうちょっと観光気分で街を見たいとか、変に見栄張って歩いて帰ろうなんてアマリアちゃんに無理言ったのが仇になってしまった。
ところが、好々爺然として見えるシュミット某が、私の顔を覗き込むようにして再び下手なナンパの常套句を投げかけてきた。
「おや? そっちの嬢ちゃん……どこかで会わなかったかい?」
ちょ、普通にナンパ過ぎて笑えるんですが───
幾星霜を重ねてきたであろう巌の如き外見に適わぬその言動に、思わず私は吹き出しそうになる。
「何だよ、フーベルト爺さん。年甲斐もなくわっかいねーちゃん上手いこと引っ掛けちゃって」
「違うわい! 本当に前に会った覚えが───」
「まーたまたまた! シュミットさん、こんなかわい子ちゃん達とどこで会えるっつーんだよ ⁉」
「可愛いお嬢さん、おいら達と一緒に楽しく飲まないかい?」
既に、混沌───
完全に出来上がっているアルコール臭の濃い数人のドワーフと闇のエルフ達に取り囲まれてしまった私たちは、あれよあれよという間にその『黄金の雫』と銘打った金属製の看板を掲げた居酒屋と思しき店先に並ぶ、テーブルの一角へと座らされてしまっていた。
まー、本当に危なさそうだったら弥七っつぁんに頼んで追っ払ってもらえばいいかー。
因みにその私の黒い使い魔は、いつものように鯖トラ小猫になって私のドルイドマントのフードの中に潜んでいる───この店に入る直前にそう思念伝達すると、左肩付近の温もりが私の後頭部をぽんぽんと叩いて返事をしてくれていた。
取り敢えずぱっと見、明るくて楽しげで悪い連中ではなさそうなので、様子をみる事に決めた。
とは言えそれ以上に、目の前で食欲をそそる美味しそうな匂いとビジュアルに逆らえなかった、と言った方がいいのかも知れない。
何だかドイツ料理に似てるかも───
年季の入った木製のテーブルの上には、シュタインのような陶器製のジョッキに入った白ビールっぽいアルコール類、大皿に盛られた様々なソーセージやらカツレツ、ロールモップスに似た魚料理、肉団子、葉野菜の塩漬け、肉の燻製、茹でたり焼いたり揚げたりすり潰された芋類、葉物野菜のスープなどが所狭しと並べられ、肉体労働が主と思しき彼らの夕餉を彩っている。
その賑々しい連中に促されるがまま、銀のフォークでその皿の中の焼かれたソーセージに似たひとつを口に運んでみる。
パリッと音を立てて口の中で飛び散る肉汁と弾ける旨味───
ぬぉ、ジューシーでめっちゃ美味い……!
我ながらがつがつと言っていいほどの勢いで、卓上の色んな料理を摘んでゆく。
ついつい次から次へと箸が……もとい、フォークが進む美味しさだ。
たちまち私はスヴァルトアールヴヘイムの下町料理の虜になった。
更に店の奥から誰が頼んだのか、陶器製のジョッキに入ったビールに似たアルコールと思しき飲み物が新たに私たちの前にどん、と置かれる。
隣りの青みががった白髪の闇のエルフの少女が躊躇なくそれを飲んだので、私も内心はかなり戦々恐々としながらそれに口をつけると、スイートスタウトのような味がして鬼のようにぐいぐい飲めた。
ヤヴァい、住める……!
ぶっちゃけ食に関しては特に、この世界でマーガレットさんというエルフの体に転生(?)させられた事に非常に感謝していたりする───何せ私は19歳のある日突然、雑草花粉症とあまり役に立たない霊感を発症し、とりわけアレルギーに関してはその交差反応で多数の食物アレルギーを抱え込みずっと悩まされていたのだ。
アレルギーを気にせず好きに何でも食せることの何と仕合わせな事か……!
私が地味にその数少ない幸運とスヴァルトアールヴヘイムの食文化の豊かさに感動していると、今度は隣りのアマリアちゃんがドン、とジョッキを叩きつけるようにテーブルに置くと同時に口を開いた。
「───で、シュミットさん。今まで何されてたんですか? みんなあなたを探してたんですよ?」
エピソードタイトルは古ノルド語で「星降る里」という意味合いの言葉です
※生成AIで翻訳してもらってGoogle翻訳「OpenL 翻訳」https://openl.io「Glosbe辞書」https://ja.glosbe.comで確認してます……間違ってたらすみません
現在ドイツ沼で溺れてますが、参考資料は主にWikipediaです
また誤字脱字加筆等修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【’25/02/23 誤字脱字加筆修正しました】