ジャーン・ウールヴ【9】
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そして私がありふれた被害妄想的懊悩をしているそんな最中───
いまだ私達の預かり知らぬ驕奢な屋敷の不自然に明るい広間で、華美な革張りのソファーセットに集う倨色の濃い貴人や為政者、聖職者、豪商と思しき面々が、やけに賤劣な笑顔をその上品ぶった顔に貼りつけ互いの成果を誇示しあっていた。
「スヴァルトアールヴヘイムでひと騒動あったようだな」
「奴らの潰し合いはさぞ見物であったろうよ」
「お陰で諜者もろとも始末できたのは神授であったな」
「全ては目論見通りという事で───パーヴェル陛下」
「あぁ、早く彼奴らには消えてもらわぬとな。それにしても例のエルフは存外な伏兵であったと聞いておるぞ」
「また随分と厄介な魔法使いが現れよったな……まだ『紫炎熄滅の魔法使い』も葬れないでおるというのに───どうするつもりだ、コナーズ」
「ご安心下さい、ミルナー司祭長。既に手は打っておりますゆえ」
「この世界に不必要な連中を一掃せねば、我々に未来などないのだからな」
「次はあの怪物が我々の思う厄災となって現れるだけか」
「楽しみだな」
「新たなこの世界の神の降臨だ」
「では、我らの栄光に乾杯!」
次々と金の装飾が派手なシャンパングラスを掲げる老獪なお歴々の中、とある人物の面影のある一人の青年が、豪華な設えの暖炉を背にそれを睥睨しながら薄く嗤っていた。
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青みががった白髪の闇のエルフの少女の白い目に気づいた私は、コホンとひとつ咳払いをし、黒いネコ科の使い魔からばつ悪く身を離し口を開いた。
「それでアマリアちゃん、私に何か用があるんじゃないの?」
その私の言葉にはっとした様子の愛らしい闇のエルフの少女は、その綺麗なストレートのボブカットをきらきらと揺らしながら私にキッと向き直り、意を決したように勢いよく宣った。
「はいっ、実はベルンハルト様からスヴァルトアールヴヘイムを案内して差し上げろと仰せつかりまして」
おぉ、マジっスか!
それはそれはすんごい助かりますです。
───って、確かアマリアちゃん、前回の私の『桂魄の宮殿』での騒ぎで怪我してたって聞いてたんだけども。
「その、魔法使いリワから聞いたんだけど、体の方は大丈夫なの? 全身打ちつけてたって……」
まさかあんな事になるとは、流石に私も思ってなかったからなぁ。
そんなの判ってたら、銀次君と一緒に傍にいてもらったのに───The『後悔先に立たず』を絵に描いたような自分の不始末に、然しもの私もこれ以上凹みようがないほどまた落ち込んでしまいそうになる。
「それは問題ありません。マーガレット様が眠っておられる間、魔法使いリワ様があたしに治癒魔法をかけて下さいまして、お陰で以前より体調がいいくらいで───あの時の詫びだと申されまして、『桂魄の宮殿』の怪我人のほぼ全てを魔導師見習いの方と一緒に魔法で治癒して下さったんです」
目を輝かせながらそう教えてくれる闇のエルフの美少女に、私は思い切り違和感を覚える。
あれ……アマリアちゃん、里和ちゃんのこと怖がってなかったっけ?
ま、それは兎も角───
「それは良かった」
思わずそう口にしてしまうぐらい、私も今回ばかりは心底美女エルフに感謝していた。
今だって───私からは逃げ回っていると思しき里和ちゃんなのだけど、何のかんの言ってちゃんと私の粗相をフォローしてくれている。
しかし、だ。
「……それにしてもアマリアちゃん、わたsh……もとい、魔法使いリワのこと、怖がって───」
「いえ、それが……! その時たくさんお話させて頂いたんてすが、リワ様ってお綺麗で本当に素敵なお方ですね! あたし、ファンになっちゃいました」
な・ん・で・す・と……?
また食い気味で、大きなパーシアンレッドの瞳を輝かせながらそう話す闇のエルフの美少女に、私はまたまた衝撃を受けていた。
無意識のうちにくるーりと頭を回し傍らの黒ジャガーに視線を移すと、やはり同じようにくるーりと誰もいない方へ顔を背けるのだった。
何でそうなるの─── ⁉
往年の○本欽ちゃんのギャグが脳内に絶叫となって響き渡る私なのであった……どっとはらい。
ロシア語翻訳は毎度のググる翻訳さん頼みで
読みは耳コピなので間違ってたらすみませんです……って言うか、ロシア語もかなり独特ですね(語彙感が
また後ほど誤字脱字加筆修正させて頂きとう存じます
【’25/02/08 誤字脱字加筆修正しました】
札幌は晴れててこちらは細雪……また除雪ですだ
【’25/02/11 微修正しました】