ジャーン・ウールヴ【7】
で、今回、たまたま(?)ベルンハルト氏と『黒鉄の狼城』再建のため、辛うじて残っていた地下室の中の一室で私を保護(?)していたその近くを、偶然通りかかったと思しき黒髪の青年が白状した……もとい、詳しく聞いた話によると───
変身魔法でマーガレットさんになりすました里和ちゃんがエルキングを誘き出して担ぐという、一聴すると単純そうで話すと実は面倒臭い感じの内容で。
当初の計画通り、メグ化した美女エルフは従者に蘭丸さんとカイルを連れ、『黒鉄の狼城』に乗り込んでエルキングの捕縛を試みたところ───
私の魔力に異常な執着を持っていたと思われるエルキングは、里和ちゃんの完璧な(?)私の姿に変身した魔法にまんまと騙され、案の定、私を籠絡しようと蠱をかけてきたという。
しかし当然のように、豪傑美女エルフはエルキングに呪詛返しを喰らわせ、見事完膚なきまでに魔法で叩きのめし、その仕上げにその鼻っ柱を折るべく城ごと破壊しつくしてしまった、と。
ところが、そこを這々の体でどうにか逃げ出した魔術士ファーマンことマックス坊ちゃん化していたエルキングは、里和ちゃん化してた私のいた『桂魄の宮殿』へ来て、今度は美女エルフを狙って───って、後は例の顛末の通りで。
それがこの為体な訳なんだけども……。
私は眼下に広がる底の見えないどデカい空洞を見つめ、つい、本日何度目かの溜め息をついた。
これが私がやった事になってるなんて……あんまりだよ、里和ちゃん。
結局、あれから私は『黒鉄の狼城』事変で美女エルフを問い詰めるべく、スヴァルトアールヴヘイム中を捜し回る破目になっているのだが───笑っちゃうぐらい全くさっぱりがっつり彼女とは邂逅せず。
……あからさまに里和ちゃん、また私から逃げ回ってるよね。
アールヴヘイムとは全然違う、この世界の第二層にあるというスヴァルトアールヴヘイムの地下( ? )世界を巡りながら、それでもやはり物珍しい闇のエルフやドワーフなどの妖精たちの住む不可思議かつ奇絶怪絶な街の風景や暮らしなんかを、ついつい興味津々で眺めながら探訪する状態になってしまっていた。
とは言え、そのつど遠まきに刺さるスヴァルトアールヴヘイムの住人たちの恨みがましさを含んだ奇異な視線にかなりげんなりしながら、私は着ていた黒いベルベットのドルイドマントのフードを深めに被るのだった。
あー、元の世界に、帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい……( エンドレス )。
ここ最近はずっと頭の中でこの言葉を連呼───と、言うよりほぼ唱えていた。
魔法でもないのに。
つか、いっそ魔法になればいいのに、とすら思っていた───いや、本気でその魔法を勉強して帰れないかとすら考えていた訳なのだが───つまり、完全なるホームシックなのだと、今ではすっかりがっかりあっさり自覚してはいた。
『……真夜よ、偉大なる魔法使いリワが数百年かけて学び研究している魔術を、この世界で目覚めたばかりのあんたが、それを編みだして使えると本気で思ってるのか?』
私のそんな怨念に近い思念を、四六時中浴びせられていた私の使い魔たる梅花紋柄の美しい黒ジャガーは、うんざりした様子で私に向って鋭利な棘々の思念を背後からぶっ刺してくる。
ぐっ……痛い所を突かれ過ぎて反論などまともに出来ようもない。
でもね、弥七───あの一件からスヴァルトアールヴヘイムでの私に向けられる視線の痛さは、弥七っつぁんの視線の数千倍な訳よ。
痛いのよ……痛過ぎるんだよ……!
いくら私の兄になってしまったヴィンセントお兄様とかわゆい魔導師見習いのライカちゃん達が、被害を最小限に抑えるために『黒鉄の狼城』内を奔走し退避を呼びかけたり、それに応じない城内で働く者たちを魔法で一所懸命に防護してくれていたとしても───
それでもやっぱり城崩壊時に巻き込まれてしまった重軽傷者なんかの怪我人や、あの城をほぼ呑み込んでしまうほどの馬鹿デカい空洞に転落した行方不明者まで多数出てしまい、尾ヒレはヒレのつきまくった私の恐怖に満ちた噂の嵐で、結果私は無数の白い目と畏怖の視線のシャワーを絶賛浴びせられ中な訳で。
本当はマーガレットさんがやった訳じゃ、な・い・の・に……!
しかし今となっては後の祭りでドンヒャララ……そんな言い訳など通用しないこの世界の常識とやらが、全く逃げ道を塞がれてしまった私の目の前に延々と展開しているだけなのだった。
そんな私が己の行く末を阿呆の子みたいに悲観している時、出し抜けにびくびくした様子で呼び止める鈴の音のような声が聞こえてくる。
「あっ……あのっ、魔法使いマーガレット様……!」
ん?
この声は─── ⁉
寒い眠い腹減った……そんな訳で、毎度後ほど誤字脱字加筆修正させて頂きとう存じます
【’25/02/03 誤字脱字加筆修正しました】
※分身体 → 変身魔法
すみません、思い切り間違って書いてました……凹
【’25/02/10 微加筆修正しました】