ジャーン・ウールヴ【6】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
ま、まさか、これを私がやった事にされてる訳───⁉
私は愕然としたまま、力が抜けてへなへなとその場に座り込もうとした時だった。
再び下方の深い大きな穴から、ぶわっと強風が吹き上げてきて私の体は抵抗すら出来ないまま一気にその風に持ち上げられる。
あ、やっば……!
「メグっ……!」
それを見た私の使い魔の黒ジャガーが、慌ててこちらに駆けて来るのを視界の端に捉えたが、瞬く間に私の体は眼下で大口を開けていた冥い空洞の中へと吸い込まれてゆく。
生理的に苦手な垂直落下に、また私は久し振りに金切り声を上げさせられる。
落下の恐怖で魔法でどうにかしようという思考すら働かない。
しかしその刹那───
「真夜っ!」
上からそんな聞き覚えのある鋭い調子のテノールが降ってきたかと思うと、私の目の前を遮るようにしてザッと何かが落下してきた。
あっと思う間もなく私の体はふわりと持ち上げられ、一瞬の強い衝撃が下から伝わってきたかと思うと、そのままグンッと上方に体が飛んでゆくのが判った。
私はその恐怖に堪えきれず、私を抱き留めた相手の体に思い切りしがみつく。
それに応えるかのように、相手も私の体を抱く腕にきゅっと力を込めてくる。
「もう大丈夫だ」
私の耳朶付近に寄せられた唇から、やけに優しげな声が呟くように私の鼓膜を震わせた。
黒髪の青年のいい匂いがする───
そう思ったと同時に、私を落下から救った相手は私が元いた扉の前へと降り立った。
ふと見ると、私を助けようとそこへ駆けつけていた弥七が、安堵した様子でそんな私たちを眺めている。
そこで私ははたと我に返り、かぁっと顔が熱くなるのを覚えた。
「……大丈夫じゃない」
「あ?」
私の髪の毛に顔を寄せていたと思しき相手は、不意に正気に戻った自分の腕の中の相手に、思い切り怪訝そうな声を上げた。
「ぜんっ……ぜん、大丈夫じゃないよ、カイル……!」
「あぁ? ───どっか怪我でもしたのか ⁉」
さっきまで怯えていたはずの私のその豹変ぶりに、流石の黒髪の青年もぎょっとしたように私の顔を覗き込む。
「違うよ! このお城のこの状態の事だよ……!」
私はばっと顔を上げ、両手で全身黒ずくめの青年のシャツの襟首を掴み、噛みつかんばかりの勢いでそう言い募った。
すると漸くそこで合点がいった様子のカイルは、思い切り私から視線を逸し、あーと言ったきり何か考えあぐねたように明後日の方向を見始める。
「カイル、傍にいたんでしょ? ぬぁんで止めてくれなかったの ⁉」
里和ちゃんの暴走をっ……!
「んー……そんな事言われてもなぁ───俺が止められるような奴なら 、今頃こうやって真夜のそばにいる事なんか出来ないだろ?」
んんん……?
どういう事だろ?
意味不明な黒髪の青年の言い訳に眉を顰め、小首を傾げたまま私の目は点になる。
そういやカイル、何で突然ここに現れたんだ?
イアンさんや蘭丸さん達と後始末にスヴァルトアールヴヘイム中を駆けずり回ってたんじゃ───?
私が惘然と自分の考えに埋没していると、不意に目の前が暗くなり唇を熱く柔らかいものが覆った。
その根拠のない黒髪の青年の行為にびくりと反応し、私は慌ててその相手の胸に両手を突っ張って身を離す。
長めの前髪の隙間から覗く間近の白皙の頬は薄く上気し、切れ長のブラックオパールのような輝き湛えた双眸は、少し哀しげにそんな私を見つめていた。
その何事か訴えかけてくるような端正な容貌に、途端に私はうっと呻いておかしな罪悪感に苛まれる。
何でこう、この人は───
それでも私はそのまま身を捩り、カイルの腕の中から逃れるようにして地面に足を下ろした。
こんな訳の判らない状況のまま、相手のあやしい感情のペースに呑み込まれてはいけない。
とにかく何より、私の黒いネコ科の従魔といつの間にかその背後に立っていたとんがり帽子のコボルトが、目を炯々と光らせて私たちを見物しているのが気になって仕方がなかった。
そんな私の妙に素っ気ない態度に、黒髪の青年は少し困惑したような表情になったが、それでも情けなくまだふらつく私の左腕を咄嗟に支えながら言葉を続ける。
「メグがエルキング達からスヴァルトアールヴヘイムを奪還してくれたお陰で、アールヴヘイムに吹っ掛けられてた損害賠償請求もチャラになった訳だし、今回のリワには俺も……かなり不本意なんだが、心底感謝してしまってるんだ───これで真夜は、名実ともにリワとこの世界の救世主として肩を並べられるほどの功績を上げたんだからな」
………な・ん・で・す・と?
なぜそうなる─── ⁉
何でそんな話に ⁉
珍しく明るい笑顔で饒舌に話すカイルに、私はただただ硬直して唖然とするしかなかった。
まさか里和ちゃんが、こんな壮大な妖精の悪戯を私に仕掛けてこようとは───
寝落ちしながらバックスペースキーを押してしまい、また書いたものを消しかけたので、今回はこの辺で
毎度後ほど誤字脱字加筆修正しますが、何とぞご容赦願います
【’25/02/01 誤字脱字加筆修正しました】