ジャーン・ウールヴ【5】
「……お前、そういう冗談はオレ様にゃ通じねぇぞ」
後ろのゾンビ風味の奇態の存在と目が合った途端、弥七はうんざりした様子で目を眇め、面倒臭そうにそう宣った。
え、弥七このゾンビ風味のお化k……もとい、お方とお知り合い……?
私が硬直したままそのやり取りを注視していると、それに気づいた黒ジャガーは少々面倒そうに口を開いた。
「あー、こいつはこの『黒鉄の狼城』に巣食ってる妖精のヒューデキンだ」
こ、こぼると?
ヒューデキン?
私は唖然としたまま、かなり年季の入った木製ベッドの上からその不気味な相手を見上げていると、ヒューデキン某と呼ばれた謎のゾンビ風味のズタボロの相手は、煩わしそうに舌打ちしたかと思うとやけに人間臭い顰めっ面で一言、
「つまんねー奴だな〜」
と、どこかの永遠の5歳児のように呟いたのだった。
妖精の悪戯か……美女エルフに私がしょっちゅう引っ掛けられてるあれ、ね。
うん……まぁ、幽霊じゃなくて良かったって事で。
私が地味に胸を撫で下ろしていると、ヒューデキンと思しき妖精が続けざまに短く詠唱する。
「我が運命!」
その掛け声と同時に、ゾンビ風味の奇怪な姿がぐにゃりと歪み崩れたかと思うと、あっと言う間にとんがり帽子を被った小学校低学年ぐらいの身長の人物が姿を現す。
枝のような手足に薄汚れた生成りのチュニックとモスグリーンのベスト、ボトムは少々くたびれた感じのオークルのブレー、足元は茶皮の短い靴を履いており、大きめの濃紺のとんがり帽子を目深に被っていてその顔は全く見えない───ただ時折、そのフェルト製の帽子の奥の暗がりから、二つの光が怪しく揺らめきながら輝いているのが判る程度だ。
ところが、喋りだしたヒューデキンの方言に私は思い切りずっこけそうになった。
「ま、兎に角ワテ、『黒鉄の狼城』の主・ベルンハルトはんとあんさんの目つきの悪い彼氏はんに自分の事よぉ頼まれてるから、何ぞあったら遠慮なく言うたってや〜」
目つきの悪い彼氏って……カイルの事ね。
まるで私が逃げ出そうとするの予想してたかのような振る舞い───って、単に黒髪の青年が心配性なだけなんだろうけど、この様子だと私のこと彼女って自分で言った訳じゃなさそうかも───きっと、イアンさん辺りが悪気なくそう言ってそうな予感。
つか、なぜ似非関西弁に変換されて聞こえるんだろ……?
少々頭を抱えたくなったが、そう言ってくれるのなら遠慮なく色々教えてもらおうかと。
「じゃあ早速、このお城の中見てみたいんだけど───案内頼める?」
私が意識的に満面の笑顔を作ってそうお願いすると、徐に小柄なコボルトはたじろいで少しづつ後退ってゆく。
「そっ、そら出来まへん!」
え?
そのヘンテコな反応に私は眉間に皺を寄せる。
「……何で?」
「何でって、無体な話やな───そんなん、あんさんがよく判っとるやろ?」
「おい、黙れ。メグは病み上がりなんだぞ」
「そりゃ、あんだけの事をやっといて、けったいな話しますな」
あんだけの事って、里和ちゃんが私になって『黒鉄の狼城』で何かしでかしたらしい、皆が苦笑いしてた───
そこで私は反射的にばっと立ち上がり、この部屋の唯一の出入り口となっている小さな鉄格子窓のついた木製の扉に向って歩きだす。
背後で弥七とヒューデキンが驚いた様子で私を制止する声が飛んでくるが、私は丸無視して勢いのままバンッと扉を開いた。
ごおっ……!
途端に私の顔面を土臭く冷たい風の塊が襲う。
うっ ⁉
いきなり吹いてきた強風に体をよろめかせ、思わず顔を背けながらどうにか前を見ると、そこには真っ暗で底の見えない馬鹿でかい穴が空いていた。
─── ⁉
え、え、えーーーーーっ⁉
それに背筋がぞわっとするのを覚えつつ、よくよく周囲を眺めると、私がいる場所はどうやら桁外れに巨大な洞窟の中らしいのだか、遠くの方で夜景のような淡い光が無数に瞬いているのも見える。
こっ、ここ、どこっ…… ⁉
待て待て待て───皆ここは『黒鉄の狼城』だって───
目眩を覚えながら更に見上げると、そこにはやはり計り知れない高さを象徴するかのような闇が蟠っていた。
嘘でしょ……?
今度は自分の出てきた場所のまわりに視線を移すと、あちらこちらに大きな建物の残骸らしき瓦礫が大量に散らばっており、遠くの方で沢山の人影が淡く照らすカンテラらしき灯りの中、それらを片づけたり何らかの作業をしているのが目に入った。
そして私のいる場所は、どこにも逃げ場のない廃墟のような瓦礫の中に、埋もれるようにして残っている部屋なのだった。
『大阪弁変換』https://osaka.uda2.com/
使わせて頂きました……合ってます?(笑
しかし、眠過ぎて書けなくなってきたので、こんな調子で申し訳ないのですが、また後ほど続き書かせて下さい
【’25/01/29 誤字脱字加筆修正しました】