ジャーン・ウールヴ【3】
そんなこんなで、スヴァルトアールヴヘイム事変(?)の後始末を忙しなくしている最中───
代わる代わる私を見舞いに来てくれた面々が、それぞれ教えてくれた前後する断片的な話の中で、この現状を要約するとこういう事らしい。
現在、私たちがいるのはスヴァルトアールヴヘイムにあるエルキングとその娘のヘルヤが居城としていた『黒鉄の狼城』で、かつては『桂魄の宮殿』の城主であるディアミド・ルカス・ベルンハルト大公の所有していたお城であったらしい───要するに、エルキングに乗っ取られたと言うことで。
元々、と言うか、エルキングがアールヴヘイムから失脚し、そのままの勢いで逃げ込むようにしてスヴァルトアールヴヘイムをその暗鬱にして苛烈な呪いの力───古の魔術で、陰邪魔術と呼ばれているらしい───で強制的に支配し、それまで『黒鉄の狼城』でスヴァルトアールヴヘイムを統治していたベルンハルト大公閣下を追い出し、現在に至っていた模様。
そしてその元凶のエルキングと魔術士ファーマンことマックス坊っちゃん、エルキングの娘であるヘルヤなのだが───
まず、エルキングに魔力と精気を奪われて瀕死の状態だったダークブロンドの青年は結局、察していた通り師匠を想って自分が率先してそれ以上の悪役となり、ついでに情報収集を兼ねて元いた古巣に単身で潜入して工作活動し、内側から瓦解させていこうと画策していたらしく。
ところが、利用しようとしていたエルキングの獰悪な魔術に身も心も蝕まれ始め、気づけばすっかり取り込まれて自分の力ではどうにも出来ないほど一体化してしまっていたという───私が彼に遭遇していた頃には、既にその状態だったのは言うまでもなく。
陰邪魔術は、悪意を糧に魔力変換出来る稀有な魔術らしいのだが、その峻烈さゆえに命を削り精神を蝕むという負の側面の方が甚大過ぎて、一般の術者たちには使いこなせない危険な術であるとして、普通は決して使うことを推奨されていないものだ───いや寧ろ、皆恐ろしがって使えない、と言った方が正しいのかも知れない。
なのでその後遺症は凄まじく、今もマックス坊っちゃんはまともに動ける状態にはなく寝たきりで、里和ちゃんが時間を割いてはその治療と解呪をし続けているらしい。
次にヘルヤなのだが、案の定、幼い頃より父親から苛烈な虐待を受けていたらしく、最終的に父親に無理矢理体を乗っ取られたことが原因で、現在は精神崩壊してしまい幼児退行を起こしていて、以前その現場を目撃してしまっていたベルンハルトさんがなぜか彼女の面倒を見てくれているとの事で。
最後に、今回の騒動の発端と思しきエルキングなのだが、最終的に私からバトンタッチする形で里和ちゃんに捕まり、散々火刑の宣告でその身を焼かれ、更に聖精魔法の業火に現在進行形で焼かれて陰邪魔術の解呪と浄化と尋問をしている真っ最中だという。
私の兄になってしまったヴィンセントさん曰く、里和ちゃんだけは敵に回したくないと心底思わせる光景が日々展開されているらしい……あなおそろし。
で、今回、私に変身魔法で扮した里和ちゃんが、満を持して『黒鉄の狼城』に乗り込んでゆき奪取した、訳なのだが───何か、それはそれでどうなんだろうと思ってしまう私だったり。
だって、このままだと本当は美女エルフの仕業……もとい、功績なのに、私としてそれをやって退けてしまった事が公の事実になる……の ⁉
いやいやいや、冗談じゃない!
今のところ里和ちゃんが何をやったか知らないが───と、言うか、みんな苦笑いするばかりで詳しく教えてくれないから!───それだけはどうにかして美女エルフのやった……もしくはやらされた事にして誤魔化せないかと。
ぶっちゃけ私、こんな鬼のような英雄譚的な里和ちゃんの跡継げる気しないし!
とは言え、情けなくもヘルヤ王女に刺されて重傷を負ってしまった挙げ句、失血のせいか正体なく丸3日寝込んでしまっていた手前、今更もう手遅れな感が否めないのが非常に泣けてくるのだけども。
あー、何でこんなに痛い思いしてまでやらなきゃならないんだ、こんな事……!
もう元の世界に帰りたいよー……母さん、めっちゃ泣いてたし。
………そうだ、母さんが。
私が物心つく前に父が事故で亡くなり、それが原因で散々な目に遭った母は、私が体が弱かったゆえに自分より先に死なれるのを何より恐れていた。
普段は気丈に振る舞ってた母が、一度だけぽつりと漏らした事がある。
もう独り遺されるのには耐えられない、と。
なのに、私は───
そこで私の中の何かがぷつんと音を立てた気がした。
……………。
…………………………。
……………よし、判った、逃げよう。
ケルト沼、宗教史沼から這い上がって来ました……資料整理するどころか増えてる始末
古ノルド語はウェブ翻訳など使わせてもらってますが、恐らく間違ってる可能性が高いのでご了承下さい
そんな訳で、また誤字脱字加筆修正すると思いますが何とぞよしなに
【’25/01/19 誤字脱字加筆修正しました】
【’25/02/10 微修正しました】