デュフル・ヘジン【9】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
『はいよ、呼ばれるの待ってたぜ』
そんな渋いバリトンボイスが返事をしたかと思うと、私の右肩の上で軽く頭に身を擦り寄せてくる。
その柔らかな感触に束の間の安らぎを覚えながらも、私は気忙しく今はまだ鯖トラ小猫化している従魔に重ねて思念伝達する。
私をベルンハルトさんとヘルヤ王女のところまで乗せてってくれる?
『了解───あんたはオレ様が守ってやるから、安心して自分のやりたい事だけに集中しろ』
そう言いながら弥七は私の肩から軽々と飛び出し、くるんとスマートに一回転すると、元の艶々した毛並みで梅花紋柄の入った筋肉質の黒ジャガーの姿に戻った。
そして更に、私が乗ることが出来るほどの大きさにその身をぐくっと膨張させる。
壮麗な使い魔の姿に惚れ惚れしながらも、私は急いでその頼り甲斐のある背に飛び乗った。
間髪入れず私の黒い従魔は、そのまま勢い良く前方の玉座に向かって走り出す。
ありがとう、弥七っつぁん───すっごく助かる。
そんな弥七だからこそ私が守らないと。
もうモタモタなどしてはいられない。
ここで私は持っていた黄金色に輝く弓を袈裟掛けに背負い、ウォーターオパールの貼りついた左手を天に伸ばし詠唱を始める。
「夜の静寂を紡ぎ、数多の精霊たちを統べ旅する獣の守護者たるペルヒタよ───その輝ける白き息吹を以て彼の者たちを守護し給え!」
詠唱の途中から、私の左手の甲に貼りついている魔鉱石化したウォーターオパールが白く光を放ちだし、それが鮮烈な光球となって辺りに広がってゆく。
それとほぼ同時に、耳を塞ぎたくなるほどの嗄れた叫換も大音声で鳴り響く。
あちこちの床の上から蒸発するように消えてゆく黒い濃霧のような闇───
私を乗せた黒ジャガーがベルンハルトさんとヘルヤ王女の前に降り立つ頃には、この大広間から気味の悪い靄々はすっかりさっぱりがっつり消え去ってしまっていた。
……?
私はゆっくりと弥七の背から降りると、徐々に元の薄暗い幽宮な空間に戻ってゆく。
いまだスーパー○イヤ人みたいな光を放っている自分の周りだけが変に明るい。
……………まさか、消えた?
いやいや───そんな簡単な訳、ないよ……ね。
「魔法使いリワ様、これは一体どういう───」
辺りを注意深く観察しようとした時、背後からかかるそんな戸惑いの声にはっとして振り返ると、ベルンハルトさんが今度は座り込んで幼女のように震える銀髪金眼の美婦を、片膝をついて介抱しているところだった。
あー……そっか。
正直、モロ里和ちゃんを嫌ってる相手にまともに対面できるほど懐が広くない私ではあるのだが、かと言ってこんな尋常じゃなく怯えて動けなくなっている相手を見捨てられるほど冷酷にもなれない。
我ながら綺麗事言ってるな、と地味に自分に辟易する。
こういった了見はわりと噂話好きな連中からは嫌われがちだ───それは相手が自分が悪者の立場に追いやられていると感じがちだからだろう。
だがなぜ、王女ヘルヤは自分の父親をこんなに畏れているのか?
まさか、幼い頃から虐待されてた……とか?
二人の元に駆け寄りながら、私はそんな自分の考えにぞっとする。
視線の焦点が合っていない濃艶なその美貌に我知らず胸が凍てつくのを覚え、私はその炯々と金色に揺らめく蠱惑的な瞳をそっと左手で隠すように覆った。
そして可愛い魔導師見習いのライカちゃんから教わった、美女エルフがアレンジしまくった九つの薬草の呪文を使ってみる事にした。
袈裟掛けにしていた黄金色に光る弓の握りを右手で掴み、「魔法の杖」と唱えて元のサンザシの魔杖に戻すと、そのままホワイトオパールのついた柄頭を上空にかざして更に三度呪文を詠唱する。
「Wyrm com snican, toslāt he man,
( ワームは蛇であり、彼は人を打ち倒し、 )
ða genam Wōden VIIII wuldortānas,
( ウォーデンが九つの栄光の印を受け取った )
slōhða þa næddran, þæt heo on VIIII tofleah.
( 彼はその蛇を打ち倒し、それが九匹に分裂し逃げた )」
ところが、唱え終わる前に私の体に鋭い衝撃が走った───
そのまま視線を下に落とすと、炎刃剣に似たグロテスクな造形の王笏っぽい杖が、私の体を刺し貫いていた。
寝落ちが酷くなってきたので、今回はこの辺で……アルプス沼で溺れてました
また誤字脱字加筆修正させて頂きとう存じます
こんな調子ですが、本年も何とぞよしなに願います
【’25/01/05 誤字脱字加筆修正しました】
毎度ですが、古英語の訳はウェブ翻訳使ってますが、かなり意訳しまくってますのでご了承下さい
【’25/01/07 微修正しました】