デュフル・ヘジン【6】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
はい、正確には香月真夜がそうじゃないかと気づいて、それがどう言った魔術か私に教えてくれたのが里和ちゃんだった訳で。
それは変身者と言う魔術に似ているらしく、『狂戦士』も持っていたと噂される能力らしいのだが、それをダークブロンドの青年は美女エルフよろしくアレンジして新たな秘術を編み出したのではないか、との事で───
里和ちゃんの見立てでは、恐らく魔術士ファーマンことマックス坊っちゃんは、自分の体にエルキングを融合させて互いの魔力を変質させ強化する事に成功したのではないか、と。
それは何としてでも『紫炎熄滅の魔法使い』の魔力を超えたいがために行われたのだろう。
互いの利益と共通の目的があったにせよ、よくそんな事が───その話を聞いて心底呆れた私ではあったが、それを差し引いてもって事なのは、彼の真意に気づいてからは別なモヤモヤが私の胸の内に去来していた。
それには当然の事とは思うが、強烈な対価を伴う副作用がある。
まず里和ちゃんの知る限り、その魔術は後戻りや解除などの法術がないという現状だ───正確に言えば、研究はされてはいるがまだ開発されてはいなかった、との事で。
まぁ、この魔術の場合、成功さえしてしまえば損どころか強大な魔力を得られる訳なので、その代償など膨大な魔力を手に入れたがっている者達にとっては瑣末な話に違いない。
とは言え、この現状───我ながら地味にやっちまった感もあったり無かったり……。
ただ、魔術士ファーマンの分身のミッシャが復活したことは、私的には何気にムチャクチャ朗報だったりする。
正直あまり自信は無かったんだけど、真の名での魔法の効果、恐るべし───まさかこんな使い方も出来るとは。
って、いやいや、これは稀代の魔法使いたるリワ・エイル・ギネヴィアが行使した偉大なる光の解除魔法なのだ……!
そうそう、私は今、里和ちゃんなんだから、全部里和ちゃんのせいにしとけば無問題無問題!
でも、このままで済む訳もないだろうなぁ、と内心かなりうんざりしつつ、私はミッシャに思念伝達で目下の心配事について訊いてみる。
ミッシャ、大丈夫?───エルキングは?
『主、長らくお暇して申し訳ございません。それが、マックスと私の魔力をごっそり盗んで地下に逃げていってしまいまして……特に、マックスは人間ですから精気もろとも強奪されてまして瀕死に近い状態です』
……ぐっ、マズい、今度はエルキングか!
つか、二人の魔力をごっそり盗んでいったって、どういう───って、そうだった!
エルキングはそもそも、その気になれば指先ひとつで人を殺害できるほどの妖術の持ち主なのだ。
私の魔法と魔力のせいで動きを封じられた相手からであれば、内側から容易くそんな真似ができたのかも知れない───
うわ、どうしよ……まさかエルキングが娘をあっさり捨てて逃げるなんて!
嘆いても後悔しても後の祭りでぴーひゃららなので、とにかく目先の厄介事から片づけていかないと!
じゃあ、ミッシャ、早速で悪いんだけと、マックス坊っちゃん逃げないように捕まえといてくれる?
『承知しました』
そんな思念伝達の声と共にミッシャは優雅に身を翻すと、大理石らしき柱を背にぐったりと座り込んでいる肌の色以外彼とそっくりな青年の傍らへと歩み寄りながら詠唱する。
「光の鍵───光の羽」
途端にそのマックス坊っちゃんの体を見えない何かが後ろ手に拘束し、そのままゆっくりとその体が宙に吊り上げられるのが見えた。
おぉ、エルキングにどれだけ魔力とか抜き取られたかは判らないけど、魔力の枯渇しかかった瀕死の魔術士ファーマンを魔力拘束するぐらい造作もない感じで。
元々ミッシャはアイシュールで急遽召喚した地場妖精だったから、結果的にアシレマでエルキングに内側から破殺されてしまった時は、眼前で巻き起こった衝撃的な光景に、我ながら非情にも無意識的に自分の記憶の彼方へと押しやってしまっていた気がする。
そういう意味では、自分は深紅のドレスの美婦の言う通りの奴なのかも───
そんな今更落ち込んでも仕方がない話に勝手にダメージを受けつつもそれを見届け、私も無詠唱で軽くサンザシの魔杖をダークブロンドの青年に向けて振り、申し訳ないけど死なない程度の回復魔法をかけておく。
これ以上の失態を防ぐために───
それまで昏睡状態になりかかっていたマックス坊っちゃんは、はっとした様子でその精気の失せた面を上げると、惘然とした表情で震える血の気のない薄い唇を開いた。
「……師匠………何故そこまでして、貴女は僕の命を助けようとしてくれるんだ?」
資料沼から生還して何とか頑張って書きましたが、もう睡魔に勝てません……また後ほど誤字脱字加筆修正させて下さい
【’24/12/27 誤字脱字加筆修正しました】
毎度古ノルド語はウェブ翻訳使ってます……恐らく文法とか間違ってると思いますので、何とぞご了承下さい
【’25/01/10 改行調整しました】