デュフル・ヘジン【4】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
魔術士ファーマンと呼ばれる青年の口から、黒いタールのような液体が大量に噴出し始める。
うっそ、嫌だっ……!
その凄惨な光景についえずきそうになりながら、私は焦ってその上体を魔杖を振って起き上がらせ、近場の石柱に寄り掛からせた───いや、決して気持ち悪いから触りたくなかったとかではなく、単純にこの筋肉質の重そうな体を動かせる自信がなかったし、マックス坊っちゃんが自分の吐瀉物で気道を塞がれ呼吸ができなくなったら困るからで。
そして再び、眩い光を放ち続けるウォーターオパールの貼りついた左手をダークブロンドの青年の背に添え、無意識のうちに『の』の字を書くようにそのまま擦り続ける。
何だか酔っ払いの介抱をしている錯覚を起こし、こんな緊迫した場面にも拘らず思わず苦笑してしまう私であった───ここに黒髪の青年がいれば、私の神経が太くなったな、ぐらいの嫌味を言われそうな場面だ。
ある種自分が色んな意味で強くなってきている自覚は地味にあったのだが、逆にならなければこの奇妙な世界で私みたいな芸のない人間が生きてなどゆけないじゃないか、とも思っている。
そんな事をつらつら考えている間にも、ファーマンの口からは大量の黒いヘドロのような謎の液体が流れ続けていたが、なぜかそれは彼のスーツの胸元を濡らすことなく床に流れ落ち、虫のような奇妙な動きで涌き立ちながら一箇所に溜まり始める。
うへー……悪意が具現化するとこんな感じになっちゃうんだ。
以前、私の魔術の先生でもある魔導師見習いの愛らしい少女が、呪詛返しについて滔々と説明してくれた通りの状況になってるな、とつくづく思い返していた。
この現象は恐らく、私が以前かけた呪詛返しが美女エルフ並の稀代の魔術士と化していたマックス坊っちゃんであっても、地味でトンチンカンになりがちな私の魔法がボディーブローのように効いていたという証しでもあるらしかった。
今回それが判明したことが、私的にはかなりの収穫だったりする訳で。
やはり世の中、その時どんなに自分がそんなのやるだけ無駄だと思っていても、やっておいて無駄なことなどないのかも知れない、とつくづく感じさせられていた。
それが無駄かそうじゃないか決めるのは、その結果と自分だけだなのだろうし───つまり、まわりが決めつけたりする事でもないし、早々に無駄と自分自身で決めつけてしまうと最終的には自分が損する事態になるかも、みたいな。
題して『悪意の呪詛返し』……自分で言ってて何げにダサい。
って、イヤイヤそれところじゃない。
ともかくモタついてもいられないので、自分自身が煌々と発する光が消えぬうちに慌てて周囲に視線を巡らせ今の状況を確認する。
メスキータの『円柱の森』に似た驕奢な玉座の間と思しき大広間の方々には、相変わらず衛兵たちが屍累々よろしく意識を失った状態で転がっており、気づくと私の放った魔法でその官能的なお御足も露わに足掻き苦しんでいるエルキングの嬌艶な娘を、いつの間にかベルンハルトさんが駆け寄り介抱しようとしていた。
っと、銀次君とアマリアちゃんは───?
『メグ、大丈夫だ。どっちも無事だよ』
それまで私の周囲を警戒してくれていたであろう鯖トラ小猫化している弥七が、すかさずそう報告してくれる。
私が気にしてたからアマリアちゃんの居場所、私の代わりにちゃんと探してくれてたんだね。
ありがと、弥七───じゃあ、銀次君に思念伝達でそのままアマリアちゃんを保護して、後でベルンハルトさんの所まで連れていって欲しいって伝えてくれる?
『了解』
あ、私が言うまでもないと思うけど、そのままシラを切って何とかこの場を自力で切り抜けてって───でも無理はしないで、駄目そうだったら私たちの所へすぐに合流してと伝えて!
『判った───また何か異変があったらオレ様もすぐあんたに報告するよ』
デキる使い魔を持った私は果報者だ、と心底感謝しながら、これで何とかこの場を銀次君が切り抜けられればと願いつつ、私自体もこの騒動の収拾をすべくパニックになりそうになる思考を何とか回転させていた。
しかし、当たり……だったのかな?
私が再び謎の黒いタール状の液体をごぼごぼと苦しそうに吐き出し続けるダークブロンドの青年に視線を戻すと、期せずして思った以上に奇麗なオックスブラッドの双眼と視線がかち合う。
その意外に真剣な眼差しにぎくりとしつつ、それまで頑張って黙っていたはずの口を開いてしまっていた。
なぜって、この美女エルフたる里和ちゃんと幼い頃から師弟関係で、ある意味一番親しい存在であっただろう相手に、声まで似せられなかった私の変身魔法を見抜かれる恐れがあったから───
「……で、彼女と一緒にいた他の従者たちは?」
私は自分の視線の先に横たわる自分の姿を眺めながら、今最大の懸念を口にする。
ところが、いまだに口からヘドロのようなものを吐き続けてるとは思えないぐらい、変にはっきりとした明るい声が私に宣った。
「殺しましたよ」
睡魔せん……もとい、年の瀬のドタバタとたまりにたまった資料の整理、その上新たな資料の沼にはまって遅くなってます
また後ほど誤字脱字加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【’24/12/18 誤字脱字加筆修正しました】
【’25/01/10 誤字修正改行調整しました】