デュフル・ヘジン【3】
こんなの、絶対に駄目だ───
憎しみあって争った先には新たな憎しみが増えるだけなのに……。
私から迸るように煌めきながら広がってゆく光の圧力に、ダークブロンドの紳士は膝を突いたまま驚いたように私の方を眺め、エルキングの嬌艶な娘はその最中であっても更に奸邪な笑みを深めている。
『───メグ!』
それまで私の右肩で、次々と巻き起こる様々な事象に、黙って堪えていた鯖トラ姿の使い魔が、流石に少々焦った様子で私に思念伝達してくる。
『何が起こってるんだ ⁉ 』
大丈夫だよ、弥七───私に何かあったら後は頼むね。
私はその二人を予断なく見据えたまま、自分が発するその光の温かさになぜか不思議な心地良さを覚えていた。
『ったく、あんたって奴は……! 判ったよ、安心してオレ様に任せろ』
多少憤慨した調子ではあったが、それでもかなり呆れ返った風情でそう応えてくれていた。
いつも弥七っつぁんがいるから心置きなく頑張れるし、気兼ねなく頼らせてもらえてるから本当に助かってるんだよ。
鯖トラ化している私の従魔にそう伝えると、そんな私の頬に小さな頭を少し強めに擦りつけてきた。
その何気ない使い魔の仕草にかなり勇気づけられながら、私はまず目先の懸念を解消する事にした。
サンザシの魔杖の大粒のホワイトオパールがついた柄頭を左手で天に掲げ、頭の中で一気に詠唱する。
『我は求む───白き清厳たる泉の輝ける光の化身ベレヌスよ! その俊豪な力を持ちてこの場に澱みたる昏黒の迷霧を、鮮烈な眩燿により洗い流し給え!』
すると、虹色に煌めく遊色が美しいホワイトオパールの魔鉱石から、更なる水流のごとき凄烈な光が迸り、辺り一帯を渦巻くように広がってゆく。
やがてその光の奔流がこの華奢な玉座の間と思しき大広間の隅々まで満たしていった。
ところがそれまで奸悪な笑いをフェロモンだだ漏れの美貌に貼りつけていたヘルヤが、突然激しく苦しみだした。
それどころか、呆然と里和ちゃんを見ていた魔術士ファーマンも突如、小脇に抱えていたマーガレットさんの体を乱暴に落としたかと思うと、やはり同じように苦悶の表情を浮かべ踠き始める。
ちょ、私の体だと思って……!
つか、やっぱりこの男、まさか───
私の想像が確信に変った瞬間、ダークブロンドの青年の口から黒い液体が血のように流れ出す。
うわ……っ⁉
やっば、マっズ……!
私は慌てて魔術士ファーマンの傍まで駆け寄ると、そのまま里和ちゃんに依頼されていたアレを試してみる事にした。
壊れた人形のように横たわるマーガレットさんの体を横目に、内心これが終わったらすぐ助けるからと言い訳しつつ、私は左手を黒いどろどろした液体を吐き散らしながらのたうちまわるダークブロンドの青年の左胸に当てる。
そんな私の左手首をファーマンことマックス坊っちゃんがガッと両手で掴み、苦悶の表情を浮かべたまま首を横に小刻みに振る。
これ以上苦しみたくないのは判るけど、自業自得なんだから我慢してよね───
私はその相手の反応に薄く微笑むと、右手に握っていたサンザシの魔杖のホワイトオパールのついた柄頭を再び頭上に掲げ、また頭の中で一気に詠唱した。
『オオタカよ───すれ違う願いは夢幻、溶けて消え去り、真実はやがて姿を現す、己を知り、その殻を破り───新たなる光明を!』
唱え終わる否や雷撃のような光が現れ、魔杖の柄頭に向かって落ちてきたかと思うと私の全身が電球の如く輝き、それが左手に向かってどんどん流れてゆく。
そしてその光に焼かれたかのように、それまで隠れていた私の左甲のウォーターオパールが徐々に出現し、私の全身の光が全て左手に吸収されたかと思うと直視できないほどに輝き、その瞬間───
怪鳥の奇声に似た断末魔の如き絶叫がこの大広間に響き渡った。
遅くなった上にこんな調子ですみません
本日インフルの予防接種受けてきまして、また睡魔に勝てません
また後ほど続き書かせて頂きとう存じます
【’24/12/16 誤字脱字かなり加筆修正しました】