スヴァルトアールヴヘイム【7】
*続きを読んで下さっている方へ*
話がつながらない場合、地味に前回新たにお話を追記してありますので、お時間ございましたらお読み下さい
気になさらない方はそのままどうぞ
「あぁ……? もう着いたのか、スヴァルトアールヴヘイムに?」
不意に私が着ている黒いベルベットのドルイドマントのフードの中から、物凄く渋くて良い声が私の耳朶を打つ。
「うん、着いたみたいだよ───『桂魄の宮殿』に」
私が苦笑しながらそう返事をすると、もぞもぞとフードが動き出し、
「……んだよぉ……もうちょっと寝られるかと思ったのによぉ」
そう文句を言いながら鯖トラ小猫が伸びをしながら這い出してきた。
確かに、と私も思いながら、当初想像していたよりかなり早くスヴァルトアールヴヘイムに到着してしまっていたのには舌を巻いていた。
私の兄になってしまったヴィンセントさんから、以前こちらに来訪したスヴァルトアールヴヘイムの使節団の魔導師が鼻を高くして宣った話によると、どうも新たにこの国の高位の術者が空間転移魔法を開発したとかで、以前かかった時間の半分ほどで互いの国を行き来できるようになったとの事。
それを後から聞いた美女エルフがあからさまに、歯噛みしながらメラメラと対抗意識を燃やしていたのは言うまでもなく───
そして今回、最後まで私についていくと言い張っていた黒髪の青年だったのだが、どうにか皆が説得して私になりすましたそんな調子の里和ちゃんに、すごすごといった風情で追従してもらう事になった訳で。
その所為かこちらに向かう直前、私と同行する黒ジャガーと何やらこそこそと話し合っていたようなのだが───なぜだかカイルは、この黒い梅花紋柄の毛皮を有した獣と不思議と馬が合うらしく、互いによく情報のやり取りなぞしている模様。
ふと気づくと、アマリアちゃんのパーシアンレッドの瞳が射るような光を帯びて私の方に向けられていた。
う、何で睨まれてる訳?
いやいやいや……間違えがなければ今、私の姿だけはどう見たって里和ちゃんにしか見えてないはず───と、すれば、睨まれているのは里和ちゃんと言うことになる。
うん、それだと納得。
何せ里和ちゃん、わざととは言うものの、方々に沢山恨みを買うような真似ばかりしている訳で───まぁ、大半が逆恨み系なのは否めない事実だったりするのだが。
そこまでしなきゃ、この世界の平和って保っていられないものなのかな、と常日頃不思議に思っていた私は、ここぞとばかりにその美女エルフの汚名を払拭できないかと、独自に挑戦してみることにした。
「アマリアちゃん、どうかしたの?」
こちらをじっと睨み続ける青みががった白髪の美少女に、私がそっと言葉をかけると、急にはっとした様子で慌てて私から視線を外してきた。
「いっ……いえっ、失礼致しました。何でもありません」
………そんな風には見えなかったけどなぁ。
「そちら側で私がどんな風に見られてるかは判らないけど───私、そんなに怖そうかな?」
「………」
返事がない。
ただのしかb───じゃなくって、すんごく困惑した表情で、上目使いに何度も私の方をチラ見してくる。
何この小動物みたいに可愛い生き物は───!
そのキュートさに思わず萌え死にそうになった私だったが、とは言えこのままでは埒が明かない。
こんな可愛い女の子を怯えさせるほどの悪名を轟かせていたのか、里和ちゃん……。
こりゃ、私みたいな新参者が一朝一夕にどうこう出来る話でもないのかも。
「……うん、ごめんね? 怖がらせちゃったみたいだね───じゃ、降りるね」
私は苦笑しながらそう言うと、そんな彼女をなるべく刺激しないようにそっと立ち上がり、そのまま馬車のドアへ向かおうとした時だった。
「あっ……えっ、えっと! その、違うんです、魔法使いリワ様……!」
するとそこでアマリアちゃんは急にうろたえたようになり、ドアノブに手を掛けようとした私のマントの腕にしがみついてきた。
おやおや?
「違うって、怖い訳じゃ───?」
「いえ、リワ様のことは正直とっても怖かったんですが……」
怖いんかい!
思わずズルっとコケそうになる。
「……その、わたし、リワ様の肩に乗ってるイケ猫さんに見惚れてたんです……す、すみません!」
えっ?
弥七のこと ⁉
そりゃまぁ、うちの弥七っつぁんがイケ猫なのは判ってますが───えぇ、親バカですが、何か?
意外な回答にぽかんとしたまま、私の左肩上の鯖トラな使い魔を見ると、なぜかうんうんと頷きながらこう言い放つのだった。
「だろ?───モテる男はつらいぜ」
………弥七っつぁん、それ、振られるフラグだから、ね?
そんじゃー、弥七にはこの先のアールヴヘイムとスヴァルトアールヴヘイムの猫柱───もとい、友好の礎となって頂きましょうか。
「じゃあ、アマリアちゃん、この猫触りたい?」
私のその一言に、青みががった白髪の美少女の表情は輝き、私の肩の上の小猫は一気に青ざめる。
頷く彼女に私はにっこりと微笑みかけると、黙ったまま左肩の生贄……もとい、哀れな使い魔を、有無を言わさずガッと捕まえるのであった。
気づけばこちらで書かせてもらってから今月で1年が経とうとしてます
気長におつき合いして読んで下さり本当にありがとうございます
こんな調子の私ではありますが、これからも何とぞよろしくお願いします
【’24/11/10 誤字脱字加筆修正しました】
【’25/01/12 微修正しました】