スヴァルトアールヴヘイム【6】
目下私は里和ちゃんになりすまし、スヴァルトアールヴヘイムへ向かって案内人である闇のエルフのアマリアちゃんに導かれ、アールヴヘイムまで迎えに来た二角獣に引かれた黒い馬車で移動中───
元は同種族であった原始エルフの時代より、冒険好きで開拓者精神旺盛なエルフ達により拓かれ創り上げられたのが現在のアールヴヘイムなのだ───これは魔導師見習いのライカちゃんから聞いたまんま受け売りだったり。
そのアールヴヘイムのエルフ達は、当然のように残ったエルフ達にも自分たちの得た知識や財産を分かち合おうと、両国を繋ぐ最短経路を互いに協力して開通させたとの事で。
それが今黒い馬車を走らせている『目覚めの扉』と呼ばれる亜空間で繋がれた道だ。
ここ最近はエルキングとの確執が原因で、ほぼ互いに行き来は無かったのだが、先立ってのアールヴヘイム襲撃事件でスヴァルトアールヴヘイムが風評被害を受けてるとかで、水晶球での通信魔法も苦情という形で久方ぶりに繋がり、困ったことに向こうさんから乗り込んで来てくれてた訳で……。
そして現在、今度はアールヴヘイム側から使節団を結成し、そのいちゃm───もとい、下世話に言えば「損害賠償よこせーっ!」的な苦情についての折衝のために私たちは来訪しているのだ。
まぁ、はっきりきっぱりがっつり言ってもただの言い掛かりに過ぎないが、その背後に潜んているであろう、何かを私たちは見極めなければならなかった。
そんな状況のせいか、エルキングの娘・ヘルヤの従者だというアマリアちゃんは、基本無口で余計なことは全くと言っていいほど話さず。
ようやく口を開いてくれたかと思えば、間もなく到着とか……。
私もあの後かなり苦労して覚えた変身魔法で里和ちゃんになりすましている都合上、下手に喋るとボロが出そうだったのでやはり地味に黙りがちになり───いや、私のまだまだ中途半端な変身魔法では、何せ声までは変えられないという体たらくだったのが一番の理由だったせいもある。
美女エルフ曰く、
「あー、そんなんバレないバレない! 風邪引いて声おかしくしたとか言ってりゃバレないから」
との事───って、何気に私の声がおかしいとかdisられてるのは気のせいではないはずだ。
私は薄墨を刷いたような肌を有した美少女に聞こえない程度に軽く溜め息をつくと、ゴシックなデザインの馬車内から窓の外に徐ろに視線を移し、闇色の濃い霧が詰まったような重苦しい雰囲気の妖しげな空間を眺める。
魔法で制御されたこの亜空間を通っている間は、決して黒い馬車から外に出ぬよう私の兄になってしまった美麗な吟遊詩人から言い含められていた。
馬車は特殊な結界保護魔法で守られているが、間違って出てしまえば二度とこの世界へは戻って来られなくなる、と。
太古の昔───まだアールヴヘイムとスヴァルトアールヴヘイムの諍いが無かった時代、興味本位で外に出てしまった者達がいたそうなのだが、やはり誰一人として戻っては来なかったらしく……。
別の空間に転移させられたぐらいならまだ良い方なのだそうだが、下手をすればこの暗い濃霧のようなあやふやな空間に閉じ込められたまま、無限の時の中を彷徨い続ける破目になってしまうという。
そんなの想像しただけでもぞっとする話だ。
何も見えない空間を何なのか判らないまま、死んでいるのか生きているのかすら判らなくなるまで迷い続けるなんて───発狂できればまだ救われる方なのだろう。
ふと気づくと、その恐ろしい空間の前方から白い光の筋が放射線状にさし始める。
やがてそれが徐々に広がり、白い光の塊となって私たちの乗る黒い馬車を押し包む。
私がその光に眩惑されていると、その光の化身のようにアマリアちゃんの声が神々しさを纏って響いてきた。
「スヴァルトアールヴヘイム───『桂魄の宮殿』に到着致しました」
雪が降って鬼寒いです……こんな一気に寒くなるとは
遅くなってる上に睡魔に勝てなくてすみませんです
また誤字脱字加筆修正しますが、何とぞよしなに
【’24/11/10 誤字脱字加筆修正しました】
【’24/11/22 微修正しました】