スヴァルトアールヴヘイム【5】
そんなこんなである意味ズルズルと里和ちゃんに引きずられるかのように、私はスヴァルトアールヴヘイムへ行く破目になる。
こんな事態でもなけりゃ、ぶっちゃけ行くのは吝かではない───何せ私の母親の───ひいてはカイルの父親の故郷でもあるのだから、どんな場所なのかムチャクチャ興味はあった。
ただ、カイル本人は幼少期にそこで暮らしていた時期もあり、彼的にはあまり良い記憶がないらしく……。
私がスヴァルトアールヴヘイムについて尋ねた時には、
「俺はヴィンに拾われてからはアールヴヘイムが俺の故郷だと思うようにしている」
と、相変わらず無愛想にぼそりとそう言ったきりで、それ以上の詳しい話はしてはくれなかった。
そうなると無理に訊くことはできず───
一体スヴァルトアールヴヘイムってどんな場所で、そこで何があったというのだろう?
そういう意味でも益々、私はしっかりと自分の目でスヴァルトアールヴヘイムを見てどんな場所なのか確かめなければならないと思った。
それ以上にがっかりポイントだったのは例の変身魔法───そう言う意味だったとは……無論ライカちゃん、あの様子だと知らされてなかったんだろうな。
魔法少女的な言葉に糠喜びしていた阿呆な自分が鬼のように憎い……。
また思いっきり騙されてるあたり……自分の短絡さには我ながら呆れを通り越して情けなさしか感じず。
でもまぁ、現在アールヴヘイム一美しい魔法使いと謳われる里和ちゃんになれるのは何気に悪い気はしない。
何せ最初に美女エルフ化した彼女を見た時の不思議な感動たるや否や───って、いやいや!
ま、まさか、実はまた私を嵌める為の罠じゃーないだろうね ⁉
そして更に私ははっとする。
いやいやいや……どんだけ卑屈で疑心暗鬼になってるんだ、私 ⁉
色々あり過ぎてついつい自覚も薄く忘れがちになるけど、マーガレットさんだってめっちゃ綺麗なエルフだし、どんだけ強欲なんだ、自分!
良くないのはどう考えたって直接的であっても間接的であっても、どんなに訳の判らない大義を振り翳していても、利己的に危害を加えてこようとする連中じゃないか。
今の私のこの状況は里和ちゃんだけのせいじゃない───多少問題がない訳ではないのは、私にも原因があるからなんだけども。
だからってそれとこれを一緒くたにしちゃ自分が混乱するばかりだ───つか、既にかなり混乱気味なのは否定できなかったり……うぬぬぬぬ。
「───リワ様」
とにかく、今は自分ができる事をひとつひとつコツコツとこなしてゆくしかない。
「リワ様!」
ふぇっ ⁉
私が没頭してしまっていた自分の思考の迷路から、無理矢理現実に引き戻す鈴の音のような声が飛んできた。
「はいっ?」
思わず反射的に返答してしまっていたが、美女エルフを呼ぶその声の主に視線を移すと、浅黒い肌に青みががった白髪から覗く尖り耳の小柄な少女が、少し怒ったような表情でパーシアンレッドの大きな瞳が私を睨み上げている。
狭く薄暗いベルリーネ型の馬車内の対面に座っているハイティーンな風情の少女は、ローズピンクのロングスリーブカフタン風ドレスの胸元はVネックに白いフロントレースの装飾、足元は茶革のブーツというエキゾチックな出で立ちだ。
うっ……かっ、可愛い───!
魔導師見習いのライカちゃんや美女エルフの使い魔のピリカちゃんとはまた違う、眼前の闇のエルフの美少女のどこか小悪魔的な愛らしさに、可愛いもの好きの私はあっさり胸を矢で射抜かれてしまうのであった。
そんな私のおかしな様子を不気味そうに眺めながら、青みががった白髪の闇のエルフの少女は声に若干の怯えを滲ませながら口を開く。
「魔法使い・リワ様、間もなく『桂魄の宮殿』に到着致しますので、下車ご準備よろしくお願いします」
あわわ……そうだった……!
私、今は里和ちゃんだったんだっけ───
毎度変なところで引っ掛かって更新遅くなってます
また誤字脱字加筆修正すると思いますが、何とぞよしなに願います
【’24/11/10 誤字脱字加筆修正しました】